《MUMEI》
迷い。
放課後のすぐ後、校門前で出待ちをしていると、予想よりもずっと早く埜嶋さんは現れた。
印象は前の世界の埜嶋さんとは大きく変わっていた。
仕事の出来るOL風でいて癒し系にもなれる、多少気の強い女の子だったはずだが、今の彼女は地味で、教室の片隅で黙々と本を読んでいるようなタイプだ。
恐らく改変の犠牲となったのだろう。
予想通り生徒会にも関与していないようだ。
とりあえずここでは話しかけるのはやめておこう。人が多すぎる。
埜嶋さんは校門を横切ると同時に、耳にイヤホンを付けた。さらに参考書らしきものを開き、メガネを装着。
お、お勉強………?
真面目すぎる。典型的すぎる。
前の世界の埜嶋さんもここまで勉強していたのだろうか。
それにしても、こんなにも人の未来を変えてしまう嘘というのは、一体なんなんだろうか。
埜嶋さんが今、現状に満足しているのだろうか。
結局のところ、この世界をぶち壊し、元の世界に還そうとするのは、僕のエゴだ。
元の世界の方が苦しむ人が少ないというのは、僕が勝手に決めたことだ。
元の世界で救われなかった人が、この世界では救われているんだとしたら。
僕は、この世界をぶち壊す資格なんて、無いのではないか。
…………て、何てこと考えてるんだ。
元の世界の埜嶋さんの方が、笑顔があった。
新斗に恋をしていた。
そっちの方が、埜嶋さんらしいじゃないか。
迷う必要なんかない。
焦るな。
僕は、僕の思った通りのことをすれば良い。
気付けば、駆け足になっていた。
埜嶋さんに話しかけるなら、誰もいない、この場所が、最適だ。
そう思おうとしていた。
だけど、多分僕は、責任から逃げたかったのかもしれない。
でも理性が、ブレーキをかけた。
逃げても、逃げられない問題だということは、解りきっている。
覚悟を、決めなければ。


「の、埜嶋さん!」

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