《MUMEI》

「あなたは……神崎さんですね?」


「はい!神崎 桜です!北島先生、偶然ですねー」


「珍しい。寮のラウンジで食事を摂れるはずですが……」


「お恥ずかしながら、編入したばかりでラウンジの利用の仕方が分からなくて……それでここに来たんです」


「ああ、それで……あ、良ければご一緒しますか?」


「あ、はい!お邪魔します」



先生の向かいの席に
座ってメニューを
見る。


どれも安くて
美味しそうなため
また迷う。


キラキラした瞳で
目移りしてたら
北島先生が
ふふ、と笑った。



「なんですか?」


「ああ、すみません。昔、知人が同じようにメニューを見て目を輝かせてたのを思い出して。この店の料理はどれも美味しいですよ。常連の僕が保証します」


「うう……それを言われたらますます迷っちゃいますよ〜」


「ふふふ。僕のおすすめは釜玉うどんです」


「あ、じゃあそれにします!店員さーん!」


お店の人をよんで
北島先生のおすすめを
注文した。


やがて料理が
運ばれてきて
黙々と食べる。
北島先生はすでに
食べ終えたあと
だったので
お茶を飲んで
一息ついていた。


このうどん、
めっちゃ美味しい!
また来たいなあ。



「神崎さん。少しお聞きしても良いですか?」


「ふえ?はひはへふは?(何がですか?)」


しまった。
あまりに美味しくて
頬張りながら
返事しちゃった。



慌てて口の中に
あったものを全て
飲み下し、
改めて北島先生の
方を向いた。


そしたらなんか、
すごく真剣な
眼差しで見つめられて
一瞬ビクリとした。



「もしかして、そのオッドアイの瞳は実のお母さん譲りですか?」


口を開いたと
思ったら
いきなりそんなこと
聞いてきて
びっくりした。


お母さん譲り……


そんなの知らない。


会ったことも
話したこともない
人のことを
言われても、
混乱するだけ。


だって、北島先生の
言う『お母さん』は
きっと、
お義母さんの
ことじゃないから。



私はへたくそな
笑みを浮かべて
答えた。



「…………実の母に会ったことがないので、なんとも……」


「会ったことがない?」


疑問系で
聞かれてハッと
気づく。


普通は
会ったことない
親子って
おかしいよね。


実母は亡くなった
って言った方が
おかしくないかな。
でも実際は
どうかわからないし
…………


だからと言って
実家の事情を
公にするのは
駄目だしなあ。



私のもやもやを
感じ取ったのか、
ふと柔らかい笑みを
見せる北島先生。


「……そうですか。すみません。神崎さんの瞳は僕の知人によく似ているので、もしかしたら……と思ったのですが、会ったことないのでしたら知らないですよね」


柔らかいけど、
どこか悲しげな
笑顔だった。

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