《MUMEI》

ご飯は北島先生に
奢ってもらって
しまった。


『僕が誘ったんですから僕が払います。年長者に恥をかかさないで下さい』


そんなことを
言われてしまったら
奢ってもらうしか
なくなっちゃう
じゃないの。


その後先生と別れて
花園寮に帰宅した。



「うわっ、桜さん!?」


寮の扉が開くと
同時に中から
出てきたのは
椿さんだった。



「あ、椿さん。ただいま戻りまし……」


バターン!!


「へっ!?」



いきなり椿さんが
倒れてしまった。


「ちょ、椿さん!?大丈夫ですか!?」



揺さぶってみるも
反応がない。
やがて椿さんは
青ざめた顔は
そのままに
ゆっくりと
口を開いた。



「お……女の子が、目の前に……すぐ目の前にぃぃ……」


ああっ!!


そうだったよ、
椿さん
女の子に近づいたら
拒否反応起こすとか
言ってたの
すっかり忘れてた!



「椿さんしっかり!まだ死んじゃ駄目!!」


「し、死なないから……離れてほしい………」


あああ私がいたら
悪化してくみたい!
どんどん顔色が
悪くなってく……


離れたら良いって
言われても
こんな死にかけの人
放っておいて
本当に大丈夫なの?



椿さんのまわりを
ぐるぐる回って
いたら、
真っ直ぐこちらに
向かってくる
足音が聞こえて
そちらに向き直る。



『どうしたの?』


「雫さん!椿さんが……っ」


エレベーターから
出てきた雫さんが
目を見開いて
スマホを
こちらに向けた。


簡単に説明しようと
したのだが
倒れてる椿さんを
視界に入れた瞬間
スマホを放って
駆け出した。



「……………っ」



悲痛な表情で
椿さんを見下ろし、
どこかへ運ぼうと
椿さんを背負う。


だけど雫さんは
女の子だから
力がなくて当然。
すぐによろめき、
背負ってる椿さんも
一緒に倒れそうに
なる。


「あっ……雫さん!椿さん!」


慌てて椿さんを
支えれば
雫さんはこくりと
頷いた。


言葉が話せない上に
唯一の意思疏通手段が
失われたから
その頷きは何を
意味してるのか
いまいち分からない。


けど、雫さんが
椿さんを
ものすごく心配してる
ことだけはわかった。




雫さんがのたのたと
歩く方向に
私も歩いていく。


二人で椿さんを
背負って。

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