《MUMEI》

桜ちゃんが部屋を
出ていったあと、
しばらく玄関を
見つめたが
すぐに椿くんのいる
ベッドに視線を
移した。



「ううぅ…………女の子がぁ………」


再び呻きだした
椿くんに自然と
憐憫の眼差しを
送ってしまう。



なんでこんなに女子が
大の苦手なんだろう。


知り合ってから
わりと長い付き合い。
理由は聞いたことない
けど、過去、女子に
なにかしらされたから
ってとこでしょうね。


じゃなきゃ女の子に
恐怖を抱くなんて
ないはずだもの。



いつかは……
治ったら良いな。





そんなことを
思った瞬間
ハッと我に帰った
ように冷静さを
取り戻した。




自分の声を出すことも
できない臆病者が
よくそんなこと
思うわよね。


自分でも笑っちゃうわ。



そうでなくても
この寮に住む人は皆
少しの努力で
解決なんかしない
重い問題を抱えてる。


椿くんと私は
分かりやすいけど
他の皆は
見当もつかない。


特に桜ちゃんは
何の問題も
抱えてなさそうな
優しくて明るい
とても良い子だ。


理事長の娘って
いわれたときは
びっくりしたけど
本当の親子では
ないみたいだから
問題と呼べるものは
そこら辺なのかな。


美鞠ちゃんは
日頃の行動に問題が
あるだけで
根は優しいし、
白くんは
人を寄せ付けない
雰囲気があるけど
面倒見が良いし。



全員問題児、
あるいは問題を
抱えてるから
この花園寮に
住んでるのよね。


皆良い人ばかり
だから、いつかは
全員しがらみから
解放されたら良いな
って時折思う。


一番最初にこの寮に
住みだしたのが私
だから、
そう思うのかな。


あれ、でも
そうしたら
花園寮から一般の寮に
移動させられちゃう
のかな。




「うぅん………あれ……雫さん……?」



そのとき、椿くんが
私に気付いて
声をかけてくれた。


私は瞬時に
距離を取り、
紙とペンを使って
意思疏通を
試みる。



『ロビーで倒れてるところを見つけたから運んだの』


「え……?桜さんが目の前に現れたとこまでは覚えてるけど…………そっか、ゴメンね。迷惑かけちゃって」


『気にしないで。私も暇だったし、桜ちゃん困ってたから運んだだけだから』


本当は少し違うけど、
それは教えない。

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