《MUMEI》 追跡。声を出してから、気付いたことがあった。 というか、忘れていたこと。 あれ、今の僕、誰からも見えないじゃん。 しかし、杞憂だったようで、僕の声に埜嶋さんは反応した。 恐らく、小鳥遊晶の仕業だろう。 埜嶋さんは僕の顔を見て、怪訝な表情を浮かべた。 「私を呼びましたか?」 えらく丁寧な言葉で話すな。違和感を覚える。 「あれ、あなた…………」 眉間に皺を寄せ、しばし考えるポーズをとった。 「え!?あなたもしかして神名くん!?」 ものすごい勢いで僕から距離を離し、今にも走り出しそうになった。 「えっ!?ちょっ、待って!」 しかし埜嶋さんは聞く耳をもたず、颯爽と走り出した。 「ちぃっ!」 僕も必死に追いかけたが、差は拡がる一方だ。 予想以上に早い!生徒会よりも運動部の方が向いているんじゃないだろうか。 このまま逃げられてしまうのは面倒だ。 適材適所だ。身体能力が上がったりするわけではないけど、気合いなら『俺』の方が凄まじい。 『僕』→『俺』 「クゥオルゥアアアアアアアアアア!!!待ちやがれえええええええ!!!」 「ひぃっ!?」 俺と埜嶋さんとの距離が徐々に縮まっていく。俺が速くなったわけではなく、俺の威圧で埜嶋さんが怯んでいるからだ。 最後の一歩。 俺は埜嶋さんの腕を掴んだ。 「ようやく捕まえ」 「イヤァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 掴んだ方の逆の腕にぶら下げていた鞄は大きく弧を描き、吸い込まれるように俺の、顔面へ………。 「タブらぁ!?」 鞄の中には教材などがぎっしりと詰めてあり、それを全力で振り回した威力は説明するまでもない。 「あ、あれ?触れるし足もある?」 消え逝く意識の中、それだけが聞こえた。 前へ |次へ |
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