《MUMEI》
満ち月
駅階段の踊り場で、同級生が険悪な雰囲気を醸し出す女子二人に挟まれていた。濡羽色のロングヘアと亜麻色のベリーショートヘア。小豆色のワンピースに胸元にタイの制服は、沿線のお嬢様女子校のものだ。二股かな。同級生は冷めた表情で眼鏡を押し上げて、何か一言二言受け答えると、囲いをすり抜けて階段を下りていく。まるで彼女たちに、関心も興味もないみたいだ。通称十人斬り。指先が冷たい。多分、雨が降り出す前触れだ。取り残された女子二人の脇を素知らぬ振りで通り抜け、乗り場に向かう。同級生が珍しく同じ方向の降り口に立っていて、こちらに手を上げた。近づく途中で制服の尻の携帯端末が短く震える。確認すると兄貴からの呼び出しであった。大学に行って離れた場所で一人暮らしを始めたのに、わざわざ地元の古本屋で働いているのだ。…兄貴が帰りに寄れってさ。…ふーん、元気にしてんの? …多分ね。三人でよく遊んでいたのに、同級生と自分の二人だけが増えていた。それから、中学三年と高校入学前には、冷え性で出不精な自分が、同級生に色々と連れ回されていた。用事があるという同級生と地元の駅で別れて、古本屋に向かう。すぐに出るつもりだった。三階にある店を出て一階に下りると、案の定、雨が降っている。本格的な大降りだ。…寄ってけば。一階に喫茶店があって、同級生の元カノが顔を出した。元カノの兄が店主なのである。通称ジュペリ男爵。兄妹揃って美形だ。…入れよ。微笑する店主の笑っていない瞳に、目を逸らす。何もかもを見透しているような視線が以前から苦手なのだ。…すぐ止むよ。今夜は折角の満月だしな。いつか聞いた穴空きの科白。不意の、天啓。

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