《MUMEI》
フ女子
文芸部の部長に、文化祭に発行される文集に掲載する原稿を書くよう頼まれていた。他人から依頼された文章は仕上げることが容易である。一方で締切が存在しない自分だけの文章を仕上げることが、近頃難しかった。将来の夢は小説家、などと恥ずかしげもなく宣言していた幼少の頃が懐かしい。先日配られた進路調査票には、志望学部文学部と書いたが、職業希望欄は空白のまま提出してしまった。幼馴染みの同級生は理数系の大学を希望しており、夏期講習とは別に予備校にも通う予定だと言っていた。恐らく、職業希望欄には何がしかの事柄を記入したのだろう。大学に行って何をせよというのか。目的が見つけられないまま志望大学さえ絞りきれていない。…ありがとね、助かったよ。原稿を持って文芸部の部室を訪ねてみると、文芸部の部長が赤鉛筆で机上の原稿に何やら書き込みながら、顔を上げる。…部員連中が、誰一人まともな文章を寄越さなくてさ。部外者に頼んだものの方が出来がいいってんだから。赤鉛筆の尻で頭をかきつつ、ぼやき、持ってきた原稿のチェックを始める。文集は交流誌の体裁をとっており、近隣の高校文芸部生徒に原稿を寄稿してもらっていた。棚に並べられた歴代の文集の背を眺めていると、所々抜けていることに気づく。…たまに勝手に借りていく人がいるのよ。大抵は戻ってきているけどね。それより今日は、眼鏡の幽霊部員くんいないの? 指摘すると管理怠慢を恥じてはいるのか部長が、唐突に話題を代える。…何かネタを提供してよ。あたし、趣味であんたたちの妄想小説書いてるんだからね。馬鹿野郎、知ったことか。と、口にはしないが、慎みのない文学少女に閉口する。

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