《MUMEI》
芙蓉象
気紛れで昼休みに図書室に出向く。文芸部部長が、図書室にも文集が置いてあるよと言っていたのを思い出したのだ。貸出席奥にある資料室から生徒会長が出てきたので、すれ違い様軽く会釈しておく。互いに、多少面識があるのだ。会長はなぜか一瞬意外そうな顔をしたが、無駄口はきかずに片手を上げて出て行く。置場所を聞いていなかったので、室内をぐるりと回って探してみる。見つからないと思ったら、新刊本が置かれている書架の一画にあった。ソファが並んだ、言うなれば一等地である。こちらも所々が抜けていた。何冊か貸し出されているのかと、資料室から出てきた女子図書委員に尋ねてみる。普段、資料室に保管してある蔵書で、期間限定企画として開架していたらしいのだ。確認していた図書委員が顔を曇らせる。何か問題が起きているのだろうか。先刻まで生徒会長に相談してでもいたのだろうか。内情は教えてくれなかったが、文集なら文芸部部室にもあると告げられる。文芸部のものも抜けていることを話すと、図書委員が渋面を作った。しばらくの逡巡の後。もし知っていれば、と、図書委員は兄貴がバイトしている古本屋の名を口にした。三階建物の二階に書庫があり、近隣の高校の文集類が網羅されて、揃っているらしい。どうしてそんなことを知っているのか気にはなった。図書委員の整った顔は無表情に近く愛嬌がないのに、不思議と嫌な雰囲気ではない。寧ろ、思わず徒に揶揄たくなるような類いの魅力がある生徒である。目前の人物に好きだと言われたなら、断る者はまずいないだろう。幼馴染みの同級生ならば間違いなくつき合う。単なる印象からすると多分、告白されないのだけれども。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫