《MUMEI》
三日月
兄貴がバイトしている古本屋には、短大生の女子アルバイトがいる。学校帰りに立ち寄る時間に丁度店番をしているので、話をする機会がある。大抵が暇なのだ。裏落栗色ショートヘアをして毒舌で、特に兄貴は壮絶に扱き下ろされる。遠慮が全くないので、一回転して本当はかなり仲がいいのではないかと常々思っている。ところがここの所しばらく店に姿がなく、代わりに兄貴が幅を利かせている。幼少の頃に市内美少女コンテストで優勝したことがある男だが、面影はない。但し、醜悪な見た目に変貌を遂げた訳ではない。…彼女、辞めたんじゃないよね。最近、休んでるの? …ああ。等と、心ここに非ずの返事ではどっちなのかよくわからない。日々明朗快活な男なのだが、珍しく精彩を欠いている。何があったか知らないが、店番の不在と関係あるのだろうか。ぐずぐずしないで告白するか、実力行使でもしてしまえばいいものを。恐らく抗われないのではないか。妙に大人びた雰囲気を持つ女子なのだ。或いは、玉砕してしまったがための、現状なのか。…兄貴さ、何で家を出たの? …大学が遠いからだろ。当たり前だという表情をする。次の質問はしなかった。じゃあ、何でわざわざ実家近くでバイトしてんだよ。充分通える距離にある大学入学を機に、一人暮らしを始めたのだ。当時、地元でつき合う彼女はいたはずだ。顔だけはいいので女にはもてるが長続きしない。幼馴染みの同級生が兄貴の動向をなぞるような一年を過ごして、継続中だというのが皮肉以外の何物でもないだろう。理由を聞けないでいる。聞いたところで、適当な返事はあるとしても、本心を教えてはくれないことをわかっているからだ。

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