《MUMEI》
大団円
隣家の二階部屋の窓明かりが灯っていることを確認して、夜更け、携帯端末に話しかけた。…起きてるか? …起きてるよ。窓を開ければ互いの顔が見えるはずなのに、電磁波を通して繋がっているのかと思うと不思議だった。言葉だけでなく、象を結ばない秘めた想いまでが相手に届けばいいのに、と都合のいいことを考えてしまう。…なぁ、覚えてない? …何を? 子どもの頃、夜中によくそっちの部屋に行ったよね。…ああ。わざわざ冷え込んだ夜とかに窓からやって来て、布団に潜り込んで一緒に寝てたな。…母ちゃんがうちの子がいないって大騒ぎしてるとこに、二人して寝ぼけて起きてきてさ。…窓から来たのに、お前、帰りはいつも裸足で玄関から帰るんだよな。冷え性の癖に。耳元直ぐで、言われたような気がした。核心には少しも触れないまま、他愛のない馬鹿話を続けて、互いの声を、聞いていた。ようやく小説を書き終えたのだ。制約とまではいかない。でもやり遂げたなら、自分自身を戒めていたルールのようなものを解こうと決めていた。…なぁ、面倒だろ? こっちに来れば。そう、口を開いたのは相手の方が先だった。今、言おうとしていたのに。窓を開けた先で、微笑う相手が手招いている。電波で繋がっているというのも悪くないが、どうせなら直接、言葉を交わした方がずっといい。電波が伝えてくれない、どうしようもない秘めた想いなんてものが、どうして、触れているだけでわかるのだろう。きっと互いに特別だからだ。冷たかった指先が熱くなっていく。…体温が高いんだよ。お前。子どもみたいだよな。…馬鹿、言ってろよ。瞳をゆっくり閉じてみる。まるで時間を止めるかのように。

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