《MUMEI》 「上手く話せない奴なんです、気ィ悪くしないで下さい。俺もう一回誘ってみます。」 安西がフォローを入れる。いい奴だ。 「いい返事がくるといいね」 不器用な奴なんだろう。俺と同類のお節介な安西がいれば安心だ。 「神部ちゃん刺々しいな」 もうちゃん付けかよ。最後まで片付けをするために七生と二人で残る。顧問は用事で早引きした。 「でも悪い奴じゃないよ」 まだ慣れてないだけだ。 「うん」 「心解いて行くのも先輩の役割だからな。」 「解ってます。CD何処に仕舞えばいい?」 「これは近くの棚に……」 横に差し出されたCDの端を掴む。七生の指先が触れた。 光で透かしたような七生の黒い双眸が俺を見た。鼻筋が通っいて形の良い唇は結ばれてる。 まだ春なのに肌は健康的に発色してた。睫毛は長くないくせに量がある。 童顔だった頃、目が強調された印象なのは黒目が大きくてよく動いてたからだ。髪は瞳より若干明るい。 毎朝丹念にセットしてる髪は時間が経つごとにくせを増していそうだ。 こんなに長時間まじまじと見たのは初めてかもしれない。七生ときたら目が合う度ああだこうだと口が開くのだもの。 「どうした。」 無言の俺を不思議に思ってなのか、難しい顔をする。 「ちょっとボケーと。」 見蕩れてましたとは言えない。 「寝不足?気をつけてね、二郎一人の体じゃないんだから。」 それって、七生のでもあるってことかな……いや、考えすぎ。まだ夢の熱が残ってるのかもしれない。 「帰ろうか。」 「待って、忘れてた」 机の下に潜り、何かを探し始める。すぐ見つからないようなので一緒に机の下を探る。 「どうしてもないと駄目な………… 」 影が出来た。床に視線を落とした隙に唇を掬われる。3秒程自分とは別の体温が流れる。キス?されてしまった? 「押さえ込まれるのは嫌だろ、聞いた方が良かったかな。でも断られるのがオチだろうし……」 七生が俺と至近距離のまま話す。 「そうだよ、断った。軽率なんだから。 今のは仕方ないとしても次はないからね。」 厳しい言葉で自分も戒めた。今も七生に飛び付いてしまってもいいなんて考えてて、相当狂ってる。 「うん。……来週さ、父さん仕事でいないんだけど。勉強会しない?」 遠慮はないのか。怒られてたばかりで流石に躊躇いはあるようで視線は俺から左に寄っている。 「どの曜日でも構わないし、勉強だけ一、二時間しよう。…………駄目?」 かなりの勇気を振り絞ったらしく顔が強張っている。 「んー、……いいけども」 心配だ、何かしようものなら張っ倒してしまうかもしれない。それくらい今の身体状況は芳しくない。 というか、自信無い。 「いつでもいいからさ。」 袖を掴んでくる辺り、七生なりの配慮だろうか。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |