《MUMEI》
返り血と雨
人の死は多少の苛立ちと

拒絶反応を惹起こした。

あらゆる人は堕落し得る

存在、ましてそれがお化

けの少女なら俗界以上に

徹底的に堕落し得ると云

う当の、とりわけ美しい

怪物たちの織り成す物語

の目指した方向と読書を

華々しく裏切る形で物語

は急展開してしまった。


存在しなければそれに越

した事はない相貌の元に

姿を見せる彼女に「お前

は化け物だ、氏ねっ」と

罵声を浴びせても此の上

もなく、口当たりの良い

言葉としてしか耳には響

ない、仮に鋭利な刃物で

ブッ殺した相手の身体が

自分自身の上に醜く折り

重なって血生臭くて殺伐

とした風貌を身に纏うに

至るとしても、その衝動

は押さえられなかった。


事実、全身に返り血を浴

びて血塗れの彼女の姿は

正しく奇異に見えた。


それから雨に出喰わして

多年の鬱積を晴らした思

いの様に闊歩しているお

化け娘の奇異に見えた姿

も程良く薄められるし、

人間離れした嗅覚を持つ

警察犬の追跡も不可能、

そして事件の真相は闇に

葬られてしまいました。


殺人事件の始まった原因

は知らないから如何なる

心理的な共感の波紋を描

く事もなく、雨に因って

往来を行き交う人々の瞳

を欺き、その件に彩りを

添えるような舞台装置等

もない道を歩くお化けの

彼女の頭上の夜空で、妖

しい程に美しく輝く月は

怪物たちの織り成す物語

の終焉を告げていた。

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