《MUMEI》
仲直り
彩原に案内されて近くのゲーセンに行くと、彩原の予想通りクラスメートが屯していた。


「マジでやんなっちまうよなぁ」


「橘だろ?あんな冷たいやつ初めて見たわー」


「ちょっと駄弁ってただけなのになぁ」


「他校の女子だって駄弁りながら作業してるんだぜ?なんで女子はOKで俺らは駄目なんだよって感じ」


「だよなー」


どうやら私の話題で持ちきりらしい。これまた彩原と同じようなことを言ってる。本気でこの冷めた性格を直さなきゃいけないかもな。


「でもよー、後で絶対怒られるよな……」


「橘、怒るとこえぇんだよなー」


「うわ、急に恐くなってきた……」


「このまま逃げちゃう?」


話し込んでいる吉村とその他クラスメート。皆別々のゲームをやってるようだ。クレーンゲームの真っ最中だったところに歩いていった。


「ちょ、今出てったら……っ」


彩原の制止を振り切り、ずんずんと歩いていく。ちょうどクレーンゲームでつり目で厳つい白い熊っぽい人形を掴んだところで私に気付いた。


「え……なんで……?」


「あ?なんだよ急に固まって……っはぁ!?なんで橘がここに!?」


「………………」


白い熊人形はするりと抜け、見事に出口の手前で落ちてしまった。私を凝視しててそれに気づかない吉村を押し退け、ズボンのポケットから100円を取り出した。


「は……?なんで注意しねぇの?」


「た、橘………?」


困惑する吉村や予想できなかったであろう私の行動に戸惑いを隠せない彩原を無視し、クレーンゲームをやりだす。


なにかのアニメのキャラクターだろうか。吉村が取り損ねた白い熊もどき人形や黒い兎やピンク色の狐など、様々な動物の人形が中に敷き詰められている。だが、そんなのどうでも良い。


「おい、吉村」


「なっ……なんだよ!連れ戻そうってか?」


「実行委員がどれだけ面倒か、お前分かるか?」


「わ、分かるわけねーだろ!なったことねーんだから」


「書類整理にプリント作成、コピー、そんでそれをクラス全員に配って出し物の準備して、指示は全部実行委員が出さなきゃいけない上に期限内にできなかったら罰があるんだよ」


ピンク色の狐を取ったが、もう一度100円を取り出す。


「つーかあのジジィ、まじムカつく。実行委員に全部丸投げしやがってよぉ……おかげでこっちはイライラしっぱなしだってーの」


「……………」


気がつけば静かになっていた吉村達。そして今度は黒い兎をゲット。


「成績良くして良い子ちゃんやってんのも疲れんだよ。こちとら慈愛に満ちたお人好しじゃねーんだっての。丸投げするならせめて楽しみのひとつやふたつ用意しとけっての!」


吉村が取り損ねた白い熊をゲットした瞬間、クレーンゲームの機械を拳で叩いた。


「つまりな。僕が言いたいのは……なんでこんなすっげぇサボりスポット教えてくんなかったんだよ!!」


うちの生徒以外誰も客いないから大声で叫んでも怪しまれない。ただ、他のゲームを楽しんでたクラスメートが何事かとこちらに集まってきた。


「なっ……は?お、怒ってねぇのかよ?」


「ああ、怒ってるよ。こんなサボりスポットを教えてくれなかったことはな!」


吉村や彩原含む皆、わけがわからないといった表情で私を見てる。


「こんなサボりスポット、もっと早く教えてくれたら……クラスメートにあたることもなかったのにさ!」

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