《MUMEI》
4
「お庭の花が、綺麗ですね」
徐に、そんな声が聞こえてきた
その声に、縁側に腰を賭けていたその男はゆるり向いて直り
だがその声の主を僅かに見やっただけで、すぐさま庭の方へとまた眼をやっていた
相手は男へと笑みを浮かべて見せると、足音も静かに隣へと腰を下ろす
その手には、小さな虫籠
何か居るのかと男が中を見やれば、中に居たのは一匹の蜘蛛と蝶
珍しい組み合わせだと相手へと言ってやれば
「……本当はとても仲が良いんです。唯……」
途中、言葉を区切ると、相手は徐に虫籠を側へと置き
そして男へと手を伸ばす
「互いが互いに恐怖心を抱いている。いつか、傷付けてしまうのではないかって」
頬に触れてくる、僅かに体温の低い手
男の存在を、まるで確認するかのように何度も触れてきた
そう思って終うのは、蜘蛛と蝶が不意に見せる自分のモノではない記憶
求めあい、そして果てて行く
見えるその瞬間は、いつも残酷なそれだ
「・・・・・・・まだ、大丈夫だ」
怯えの色を見せ始めてしまった相手へ
男はその身体を引き寄せると、柔らかく抱いてやった
そう、今は(まだ)大丈夫
男は僅かに苦笑を浮かべながら、自身の首筋へと手を宛がう
其処にあるのは、蜘蛛の形をした痣
触れた途端、その痣が肌の上を這い回り始めた
「だが、もしそうなった時は ――」
言い知れぬ不安に駆られ、男は相手を抱く腕を強め
縋る様に相手の肩口に顔を埋めながら
「……また、二人で死ぬか」
呟いたソレに相手は僅かに眼を見開き、だがすぐに柔らかな笑みを浮かべると
「 ――様と一緒なら、何度でも」
耳元に唇が寄せられ、そして聞こえてきた声
その声に安堵を覚えると、男は相手にもたれかかったままゆるり寝に入っていたのだった……

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