《MUMEI》
質問。と答え。
まぁすぐに意識は回復できるんだけどね。
「アアアアアア………顔面が陥没するぅ………」
『俺』→『僕』
気を失った俺人格と入れ替わり、僕が表に出ることにより、一度だけ意識を回復することができるのだ!
その分気絶するほどの痛みと苦しみに向き合わなければならないけどね。
「あ、あなた………幽霊?それとも似てるだけ………?」
不安そうに眉間にシワを寄せ、鞄(凶器)を肩の位置まで持ち上げた。
「待って!追撃は止めて!」
二度も意識をトばしてられない!
「僕は神名薫………本人だよ。勿論、幽霊じゃ………ないよ?」
「なんでそこ疑問系なの」
今考えると、自分の存在の曖昧さに言葉が詰まった。
「とにかく、僕は正真正銘の神名薫だよ。無茶かもしれないけど、信じて」
「……………それで?私に何か用なの?」
「ちょっと話が長くなるし、すべては話せない。けど君にしかできないことがあるから協力してほしいんだ」
「なんなのそれ………ちょっと身勝手すぎない?」
ツンケンしてきた。前の世界の埜嶋さんのようだった。
「身勝手で構わない。君に覚えはないだろうけど事の発端は君なのさ」
「断るって言ったら?」
「僕にも考えがある」
そう言った瞬間、埜嶋さんは動き出した。
先程『俺』を一撃でノックアウトした鞄を振り上げ、僕の顔面目掛けて思い切り振り回す。
一歩だけ退がると鞄は空振り、地面に落下した。
「無駄だよ。さすがに不意討ちでもないのにそんな大振りの攻撃なんか当たらない」
「ちっ」
というか攻撃するのに躊躇いがないな………。ちょっと怖い。
「とりあえず確認したいことがあるんだけど、埜嶋さん。君は佐久間新斗をどう思ってる?」
「佐久間………新斗?………ああ、ハニカミ生徒会長様ね」
この世界では面識がないようだ。
「いつもヘラヘラ笑顔でいるから逆に不気味ね。裏表がなくて正義感のある人と言えばそれまでだけど、私から見れば胡散臭いわ。あくまで私から見れば、ね」
思った以上の酷評であった。
新斗に聞かせたらどんな顔をするのか是非観てみたいものである。
「随分な言い様だね」
「ああいうタイプ、嫌いだもの」
「そっか………」
埜嶋さんを助っ人とするのには、やはり無理があるんじゃないかと思えてきた。
新斗の話を振れば前の世界の記憶が呼び覚ますかもしれないと思って確認してみたけれど、まったく思い出す素振りもない。
これは………マズイかもしれない………。
もっと強いキッカケがあれば。
だとしても、新斗本人を呼ぶわけにはいかない。
もっと強い、キッカケ。
「……………………………もうひとつ、質問いい?」
「それで私を解放してくれるなら、どうぞ」
「いいよ。これでダメなら、潔く諦める」
強い、キッカケ。
前の世界での埜嶋さんの印象。
あの屋上での一抹を思いだし、口を開く。





「新斗のどこが好きなの?」






「寡黙のところとか、眼鏡がクールにキマッてるところとか、頼り甲斐のあるところとかってえ!!いきなり何を言わせるのよっ!!」







「ははっ」
つい笑ってしまった。
賭けに、勝った!
「え……………あれ…………何今の…………。私、そんなこと思ってなんか、ないのに…………」
前の世界と今の新斗の世界はまだ、完全に同調しているわけではない。
だから強いキッカケさえあれば、矛盾は生まれる。
「埜嶋さん」
埜嶋さんは胸を抑え、うずくまった。
「その気持ちは、本物だよ。嘘偽りの無い本音だよ」
「これ………一体どうして………」
顔を伏せようとする寸前、僕は手を差し伸べた。




「今の君でなきゃ出来ないことがある。僕と一緒に来てくれ!」

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