《MUMEI》 金色とバイク「……ああ? ……誰だ、お前」 目があった瞬間、赤茶色の眼でいきなり鋭く睨み付けられる。足がすくみ、蛇に睨まれた蛙の様になっていた。 身長は彼女とさほど変わらない。しかし、相手を簡単に威圧できるような雰囲気をしている。 口が思うように開かない。だがものを訊かれているからには、答えなくてはならない。最悪、もしかすると 今ここで軽く、しかし重くひねられるかもしれない。とにもかくにも勇気を出して答える。これでぼろぼろに なることはなくなっただろう。 「し、市立夜ヶ岳高校1年、黄山美咲です! え、えっと、最近ここに引っ越してきました!」 妙に敬語になり、背筋を伸ばす。彼女は不良等が苦手なのだ。苦手、というよりは怖い、なのだろう。 怖い、怖い、怖い。逃げ出したい。しかし足がすくんで動けない。 沈黙。目の前の少年はずっとこちらを睨んでいる。5分ほど経っただろうか。突然、少年が手を 制服のポケットに突っ込んだ。脅すためにナイフでも出すのだろうか。それとも鈍器でも 出すのだろうか。考えが悪い方へ悪い方へと行ってしまう。 だが、そんな心配は全く持って必要がなかった。彼が取り出したのは、棒つきキャンディだったのである。 思いもよらない物が出てきたので、彼女は拍子抜けしてしまった。 「……アメ?」 驚く彼女など全く気にもせず、キャンディの包み紙を取り、そのまま口に入れる。途端、ガリッ、ガリッと キャンディを噛み砕く音が聞こえてきた。どうやら彼は噛み砕いて食べるらしい。 「……そーかい。しかしまあ、何でそんな急いでんだ? まだ時間はあるぞ」 「えっ……でっ、でも、もう8時ですよ? 遅刻しちゃいますって!」 その言葉を聞いて、彼は微妙な表情を浮かべる。どうやら会話のズレがあるようだ。 「……何言ってんだ、お前。……おい、てめぇら。腕時計貸せ。んでこいつに見せろ」 「へ……へぇ! 喜んで!」 まだ門の内側で待機していた男の1人が、彼女に腕時計を見せた。時計の針は7時を指している。 「し……7時?」 「あーそうだ。まだまだ間に合う時間なんだよ。それを何で急いでんだ」 「そ……それじゃあ、あたしが間違えただけ……?」 彼は大きく溜め息をついた。呆れたのと、初日から疲れたのと両方だろう。 「あー、めんどくせぇなあ。まあ良い。乗ってけ」 「乗るって……何にですか」 彼が通りの向こうを指さす。それに習って指の先を見ると、沢山のバイクがこちらに向かって来るのが見えた。 やがて2人の前で停まると、乗っていた全員が一斉に頭を下げ、 「今日もお勤めご苦労様です、リーダー!!」 と言った。その光景に呆気にとられていると、キャンディをくわえたまま、彼はこう言った。 「……つーわけで、オラ、乗れ」 「……えっ」 前へ |次へ |
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