《MUMEI》
金色との昼食
 午前の授業も終わり、昼休み。美咲は机に弁当を置き、食べかける。すると右側から先程の可愛らしい声が聞こえてきた。

「美咲ちゃんっ! 一緒に屋上でご飯食べない? 千夏も一緒で」
「えっ? い......良いの?」
「もちろん、良いよー。俺達も黄山ちゃんと一緒に食べたいなーって言ってたし」

 思いがけない人物からの誘いに、少し驚く。それと同時に、回りの目も気にした。このクラスだけを見ても、
どうもこの2人は人気があるらしい。授業と授業の間も、常に回りに人がいた。それも女子ばかりだ。
 もしや、ここで誘いを断らねば後で呼び出しを受けるのかもしれない。しかし断れば2人に失礼だろう。

 彼女の心が激しく揺れていることも露知らず、凛と千夏は美咲の手を引いて屋上へと連れていった。

「わあ、気持ち良い風!」
「だろ? 俺達、いつもここで昼飯食ってんだー」
「あー......腹減った。さっさと飯食うぞ、美咲、千夏」

 美咲は凛のいる方を向く。するとそこにいたのは、初めて出会った時の凛だった。髪を上げ、眼鏡をかけた、
鋭い目付きの凛。彼女は凛の豹変ぶりに、戸惑いを隠せなかった。危うく、弁当箱を落としそうになる。

「凛......くん、だよね?」
「あ? 何言ってんだ、お前」

 凛は何が言いたいのか分からない、という顔をしたが、美咲は何が何だか分からない、という顔をしていた。

「そういえば、黄山ちゃん教室入ってきた時も、凛のこと見て不思議そうな顔してたね」
「何が言いてえ。言ってみろ」
「は...... はい。朝見たときの凛くんは今みたいに、そんな格好してたよね。でも......教室にいたときは、
まるで別人で、全然雰囲気が違った。だから、教室の凛くんは、作ってるのかなって......だから、あたし、
怖くて......」

 理由を聞くと、2人は合点がいった顔をした。

「ああ、そういうこと。なるほど確かにね〜。そりゃあ戸惑うよ、全然人格違ぇもん!」
「まあ......性格は違うな。......けど」

 凛は頭をぼりぼりと掻くと、美咲の眼を真っ直ぐと見て答えた。

「どっちも俺だ。二重人格って訳じゃねえから安心しろ。でもよ、こうしねえと俺はどちらの世界でも
生きられねえんだ。普通のこの世界と、普通じゃねえ、家の世界じゃあな」
「家の......世界?」

 少し雰囲気が重くなっているのを感じ取った千夏は、空気を変えるため、話題を昼食へと振った。
明るい性格の千夏に出来る、最低限の気遣いだった。

「それより、早く飯食っちまおうぜ! 2人も腹減っただろ?」

 千夏に振られ、それぞれの弁当を広げ始める凛と美咲。それを見て、千夏は安堵の息をつく。

(凛くんの......お家の世界......)

 美咲はその事だけで、再び、頭の中を満たしてしまった。

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