《MUMEI》
金色のテニス
 午後の授業は体育。男女合同でテニスだ。

「きーやまさんっ!」
「わあっ!」

 更衣室の中、まだ着替え途中の美咲の肩に、急に手を置き、驚かせてきた者がいた。

「アハハ、びっくりした? 驚いた黄山さん、かーわいー」
「び、びっくりしたぁ〜。やめてよ、青井さん〜!」
「いやあ、つい。面白いかなぁ〜って思って」

 美咲を驚かせてきた彼女の名前は 青井幸(アオイ ユキ) 。1年2組の生徒である。長い黒髪に少し眠たげな眼。
男女共に知り合いの多い彼女は、美咲の初めての女友達だ。
 幸はもう着替え終わり、女子の赤い学校指定ジャージを着ている。

「興味で驚かさないで!」
「ごめん、ごめん。じゃあ行こうか」

 グラウンドの端にあるテニスコートへ向かうと、粗方人が集まっており、もう始めているペアもいた。その中で、
靡く金髪に目を引かれる。凛と千夏だ。
 2人はラリーを続けているかと思うと、スマッシュで打ち返したり、拾わせない様な球を返したりしていた。
千夏はいつもの飄々とした表情だが、凛は学校外の時の顔で対戦している。

「すっげー......」
「千夏もだけど、凛もすげえよなー......」
「絶対ついて行けねえ......」

 回りは口を開けて、呆けて見ている。それもそうだ、こんなに真剣な勝負を見せられては呆けるよりないだろう。

「相変わらず凄いよねー、あの2人。でも、あの2人にご飯誘われた美咲も凄いよ〜? 凛君が誰か誘ってるところ、
見たことないし」
「そうなの?」
「うん。千夏君のガード堅いし。最早お近づきになるのも難しい」
「そうだったんだ......でもそれなら、他の子達からあたし恨まれたり......」
「させねーよ」
「うんうん、させない。俺達が守るよっ」

 幸と美咲で話していると、テニスを一旦終えた凛と千夏が、後ろから声を掛けてきた。白熱したのか、汗をかいている。

「りっ、凛くんっ!?」
「あ、お疲れ様。終わったんだ」
「うん! 千夏とやってたら真剣になっちゃった!」
「やっぱつえーわ。 あちーの何のってもう」

 千夏はそう言うと、ジャージで顔を拭く。その隙間から腹が見え、美咲はそれに少しドキリ、とした。それと同時に、
回りから黄色い声が聞こえてきた。
 一部の女子はこっそり持ってきていた携帯を持ち出す。

「うっわ、千夏くんの腹エッロ!」
「腹チラキター! さいっこう!!」
「写メ、写メ!」
「あ、写メ、ゲット!」
「「 ちょうだいっ!!! 」」

 千夏は少し呆れた顔をし、小さくまたか、と呟いた。 ......またなのか。美咲は心の中で突っ込んだ。
しかし、凛の方も気になってしまう。写真が撮りたい訳でもないが、見たくなってしまった。
 その時。凛がジャージの襟を持った。美咲は期待し、無意識に腹の方へ目を向ける。
 だが、凛は顔を扇ぐだけで腹は見えなかった。

(やっぱり、無理だよね......)

 少し肩を落とす美咲を、凛と千夏は不思議そうに見ていた。

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