《MUMEI》
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紗季は、先輩の劇団員二人に、相談してみることにした。人質役をやっていた今倉麻未と、同じ26歳の朝乗翠だ。稽古が終わると、三人はそのまま喫茶店に入った。

女子も稽古時には、皆Tシャツにジーパンだが、翠はいつもセクシーなワンピースを着ていた。長い黒髪がよく似合う影のある小悪魔キャラ。165センチの見事なプロポーション。惜しみもなく美脚を披露し、男の視線を釘付けにする。

紗季と麻未はTシャツにジーパンだが、色気というものは、どんな格好をしても隠しきれないものだ。豪華なパーティーで着るような煌びやかな衣装よりも、Tシャツにジーパンや、作業着のほうが、はるかに魅力的に映る場合もある。

紗季はアイスコーヒー、麻未はアイスティー、翠はコーラを、それぞれ注文し、すぐに運ばれてきた。

「翠さんは、ファッションモデルの仕事をしているんですよね?」紗季が真顔で聞く。

「そうよ」

「それって、誰にでもできる仕事なんですか?」

翠は少し考えると、言った。

「誰にもできる仕事じゃないでしょう」

「そうですよね」

紗季は、諦めたような顔でストローを加え、アイスコーヒーを飲んだ。

「何か割のいいバイトないかなあ。短時間で稼げる仕事」

「ないこともないよ」麻未が言った。

「ありますか?」紗季が身を乗り出す。

「時給3000円。数時間で10000円行くよ」

「あ、夜の商売は、ちょっと、自信ないんですけど」

「水商売じゃないよ。美術モデルよ」

「美術モデル?」紗季は聞いた。「それって、読者モデルとかですか?」

「違うよ。芸術のために体を張る崇高な仕事よ」麻未が笑う。

紗季は、麻未の言葉を待った。麻未は顔を近づけると、小声で言った。

「美術モデルというのは、要するに、ヌードデッサンのモデルよ」

「ヌード!」

「声が大きいよ、バカ」

「無理無理無理無理無理!」紗季は手と首を左右に素早く振った。「あたしには無理です。絶対無理です」

「無理なことないでしょう。紗季ならできるよ」麻未が笑顔で言う。

「無理ですよ。だって、確かあれ、全裸ですよね?」

「もちろん、スッポンポンよ」

誇らしげに言う麻未に、紗季は重ねて聞く。

「だって、男子もいるんでしょう?」

「いるね」

「それなのに全裸を見られちゃうって、あり得ないですよ」

興奮気味の紗季に、翠が冷静に言った。

「それは、紗季に偏見があるからよ」

「偏見?」

「あたしも、かなりきわどい水着姿になることもあるけど、カメラマンは仕事だから。嫌らしい気持ちで仕事してるわけじゃない。みんな真剣に仕事してるのよ」

「あ、でも・・・」

今度は麻未が笑顔で説明する。

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