《MUMEI》
10
「星奈さん」

「はい!」

紗季はかわいそうに顔が真っ赤だ。彼女はバスタオルを取り、安藤に渡した。

(ううううう・・・)

怖くて岡田のほうを見ることができない。

(お願い見ないで)

恥ずかしい。たまらなく恥ずかしい。岡田は絶対に見ているだろう。胸のドキドキが激しくなる。

「・・・かわいい」

岡田高正こそ夢の中だった。彼は前から絵の勉強をしていて、ヌードデッサン会も初めてではない。しかし、まさかこの会場に愛しの紗季がモデルで来るとは、当然のごとく夢にも思っていなかった。

(岡田君、見ないで、退席して)

紗季の願いもむなしく、岡田は彼女の裸体を直視していた。見ないでと言うほうが無理な注文だ。見るに決まっている。紗季が美術モデルをやっていたことも驚きだが、きょうが初めてというから、始めたばかりなのだろう。

それにしても美しい。岡田のほうが頭の中が真っ白になってしまった。こんな形で大好きな女性の裸が見れてしまうとは、人生は何が起こるかわからない。まさに奇跡だ。

稽古の時も、汗まみれになるTシャツ姿の紗季をチラチラ見ていたが、スタイルがいいと思っていた。身長164センチで見映えもする。

だが、やはり一糸まとわぬ姿は全然意味が違う。豊かな胸。セクシーな美ボディ。見事な美脚。たまらない。

(紗季・・・)

「そろそろ描こうね」

「え?」

岡田は声がしたので後ろを振り向いた。講師の安藤が意味ありげな笑顔で見ている。岡田のスケッチブックは真っ白だ。

「あ、はい」

モデルがあまりにも美しいので、若い岡田が思わず見とれてしまったのだと、安藤は取り、苦笑した。

紗季のほうはもう限界だったが、何とか耐えた。

(恥ずかしい・・・恥ずかしい)

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