《MUMEI》 2「そうだよ。みんな現実を直視しようよ。どこかで勝負かけないと5年後も10年後も同じだよ。いや、存続できないよ。無名の劇団は内容で勝負。観客がハラハラドキドキするさあ、え、まさか、それって、ええのう! みたいな刺激的なさあ」 「正確な日本語を話してください」 「ギャハハハハハ!」 翠が言って未来が大笑いする。今泉も二人を笑顔で見ると、演説を続けた。 「俺もいろいろ考えたんだよ。どういう角度で攻めるべきかって。やっぱり万国共通なのは、アレでしょう」 「アレ?」未来が小首をかしげる。 「あと一歩で反則になるっていうギリギリの線を攻めたいわけよ」 「監督」紗季が怖い顔で言う。「下着姿を女子に強要するのはセクハラですよ」 「セクハラじゃないよ、演劇なんだから。じゃあ、女優を裸にする映画監督はみんなセクハラか?」 「入浴シーンとか、さっき岡田君が言ったように必然性が問題なのよ」翠が反論する。「今回のは必然性はないと思う」 「靴でいいでしょう」麻未も紗季を庇う。 今泉は土俵際に追い込まれた。 「必然性はあるよ。人質の身代わりに制服を脱ぐ勇敢な女性警察官。いや、もっと言うならば、ウチの劇団の強味でしょう、ウチの劇団の女子はみんなかわいいしさあ」 「セクハラ」翠がピシャリと言う。 「何でセクハラなの? かわいいって褒めてんじゃん」 「それがセクハラです」麻未が睨む。 「セクハラです」紗季も怖い顔で睨む。 「ギリギリセーフでしょう」 「余裕でアウトです」三人がハモッた。 今泉は、唯一の理解者とばかり、助けを求めるような目で未来を見た。未来は親指を出して。 「アウト!」 「はあ・・・」今泉哲は意気消沈すると、首を左右に振った。「住みにくい世の中になったな」 「監督が住みやすかったら、女性は街を歩けないですよ」 紗季がトドメを刺し、ラストシーンの変更はなしということで、ミーティングは終わった。 前へ |次へ |
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