《MUMEI》 3郵便局強盗の演劇は受けなかった。観客もあまり入らなかったし、今回も赤字だ。今泉哲は顔を曇らせて呟く。 「やっぱり靴じゃダメなんだよ」 「まだ言ってるよ」紗季がふくれる。 マーケティングといっても限度がある。それに、宣伝費を出せないと、マーケティングも力を発揮しない。 だが、全くファンがいないわけではなかった。劇団「難破船」のブログやSNSに女子メンバーの顔写真を掲載すると、反応は悪くない。贔屓目なしに、皆とびきりにかわいいからだ。 「それが世の中というもんなんだよ」 今泉哲は思索する。 紗季も麻未もルックスは文句なしだ。未来も個性的だし、翠はセクシー。皆魅力的なのだ。芸能界で売れているアイドルや女優と勝負しても、全然負けていないと今泉哲は自負心があった。 「それをセクハラだなんて、わかっちゃいないねえ、あの子たちは、世の中の流れというものが」 「世の中じゃなくて監督の流れでしょ?」 「わあああああ!」今泉は女性の声に驚いた。「何だミクか」 「何だはないでしょう」 「違うよ、君はちゃんとわかってる子だから」 「そう?」未来は笑う。 居酒屋でミーティングをしたいところだが、そんな金はない。ミーティングはいつも稽古場だ。今泉団長は、未来以外の女性メンバーと岡田高正を先に帰すと、残りのメンバーで秘密会議を開いた。 「裏切者の岡田君は帰りましたか」三宅冬政が笑顔で言う。 「裏切者はヒドイでしょう」未来も満面笑顔だ。「岡田君は紗季の大ファンだから、しょうがないよ」 「え、そうなの?」今泉が驚く。 「監督も鈍いね」 「で、次回作は、本当に勝負かけないとヤバイよね」竜也が真顔で言った。「やっぱり女性陣を説得して、万国共通のアレで行くしかないかな」 「アレだな」 「アレですよ」 竜也と今泉と三宅が三人で納得する。未来は笑顔で聞いた。 「アレって、女の裸?」 「ストレート過ぎるって。いくら何でも裸はダメでしょう」 「映画や動画にはR18がありますが、演劇にはありませんからね」三宅が冷静に言う。 「過去にそのタブーを破った劇団ってあるのかな?」竜也がスマホを手にして検索する。 「公然わいせつで御用になった劇団もあるらしいですよ」三宅はもう調べていた。 「公然わいせつになるかね?」 「なるでしょう」 皆しばらく沈黙した。すると、未来が口を開いた。 「ヌードデッサンのモデルに挑む女の子の物語は?」 今泉と竜也と三宅は、真顔で未来の顔を見た。 「え、あたし、変なこと言った?」 「ミク師匠。詳しく聞かせていただけませんか、あなたのアイデアを」 今泉はいきなり正座して未来の両手を握った。 「よろしい。三人とも頭が高い」 「ははあ」 三宅と今泉は土下座したが、竜也はあぐらをかいたままだ。 「え、でもミクちゃん、裸になるのはヤバイでしょう」 「もちろん裸にはならないよ、最後まで。でもさあ、そういうストーリーだと、期待するでしょう」 「なるほど」 「心理戦だ」 「素晴らしい」 「君は天才だよ」 「アハハハ」 今泉は未来から話を聞き、早速シナリオを書いた。タイトルは「裸婦はエロスか芸術か」だ。 前へ |次へ |
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