《MUMEI》
4
稽古場で劇団員全員が集まると、今泉哲は、早速皆にできたばかりの脚本を配った。

「さあ、次回作だよ」

「へえ、仕事が早いね監督」翠が感心する。

「げっ・・・」

タイトルを見て、紗季は思わず赤面した。今泉は、勝ち誇ったような笑顔で説明する。

「今度のは傑作だよ。社運を懸けてるからね」

「いつから会社になったんですか?」紗季が口を挟む。

「それも夢じゃないさ。この劇でがっぽり儲かって、劇団を会社にしようかな。カンラカンラ」

「早く説明をお願いします」

「まあ、そうせくな、アミちゃん。今回は斬新なストーリーだ。一人の乙女が、芸術のために体を張るんだ。裸婦モデルに挑戦する物語だよ」

「え?」

紗季は顔面蒼白になると、すぐに麻未の顔を見た。麻未は小声で囁く。

「あたし、何も喋ってないよ」

「あたしも」翠も首を左右に振る。

まさか岡田。いや、自ら嫌われるようなことをするとは思えない。紗季は岡田を睨みかけたが、やめて、今泉の話を赤面しながら聞いた。

「ヒロインは絵の勉強をしていたんだが、人物画を描くにあたって、裸体のデッサンが技術向上のために、いかに大切かを知るんだ。そして、裸婦モデルをやりたがる女性が少ないことを知るのです!」

今泉は得意満面で力説する。

「それもそのはず、大勢の男女が見ている目の前で、スッポンポンになるなんて、そりゃあ勇気がいるからね。でも彼女は芸術のために決意する。裸婦モデルをやりながら、絵の勉強をしようと」

紗季は混乱していた。偶然だろうか。それとも、何かで自分が裸婦モデルをしていることを団長は知ってしまったのか。

「でもヒロインは人一倍シャイだから、葛藤がある。自分にできるだろうか。実際、経験したことがないことだから、どれだけ恥ずかしいかわからない。しかし、皆に励まされ、ついに本番の初舞台を迎えるのです。大学の美術部の教室で、20人くらいの男女学生が見守るなか、彼女は、一糸まとわぬ姿になるのだあ!」

オーバーアクションの今泉に、未来が口を挟む。

「監督が言うと、芸術のためというのが嘘っぽく聞こえるね」

「誰がエロールジマーマンや?」

「言ってません」

今泉は皆を笑顔で見回すと、言った。

「何か反論はあるかな?」

「確かに刺激的なストーリーだけど」翠が聞いた。「全裸になるシーンはどうするんですか?」

「いい質問です、お姉さん。実は、教室はラストシーンで、バスローブを羽織ったヒロインの独白がナレーションで流れ、躊躇しながらも、ついにバスローブを脱ぐ! そして、生まれたままの姿になる・・・ところで、暗転。これですよ旦那」

「見えないんですか?」麻未が聞く。

「約1秒。いや、0.5秒でもいいけど、絶対に見えないから」

「共演者には?」紗季が心配する。

「・・・・・・」

今泉は一瞬無言になると、未来の顔を見る。

「共演者は、見なきゃいいでしょ」

「そう、共演者はその瞬間、ヒロインのことを見ないように」

紗季はその危うさに首をかしげた。

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