《MUMEI》
5
「大丈夫ですかね。やっぱり苦情が来るんじゃないですか?」

「苦情なんか来ないよ」竜也が意気込む。「大事なのはそれまでのストーリーだよ。ストーリー性が高ければ、裸だけがクルーズアップされることはない」

「監督」三宅が冷静に質問した。「テーマは、裸婦はエロスか芸術か、ですよね?」

「そう。裸絵のモデルというと、色眼鏡で見る人がいる。しかしこれは芸術なんだ。その偏見を打破する崇高な物語なのだよ、カンラカンラ」

「そこで、俺の出番か」竜也が脚本を読む。「裸婦がエロスか芸術かなんて議論はナンセンスだよ。美しい女性の裸を見たら、性的興奮を覚えるのはごく自然なことだ」

すると、三宅が続けて読んだ。「芸術的美の追求をしていったら、辿り着く終着駅は、女性の裸ですよ。女の裸。これほど美しく、魅惑的なものがありますか。あるなら、私に見せてください」

紗季と翠と麻未は顔をしかめて聞いていたが、セクハラかというと、微妙なところだ。とても今泉監督一人で考えたストーリーとは思えない。

彼女たちは、脚本をパラパラとめくり、ところどころ読んでみた。ヌードデッサンの理念の詳しさに、経験者である麻未と紗季は驚いた。

そして、女性目線が随所に散りばめられている。翠は未来のことを見た。未来はニンマリしている。

(監督とグルだったか)

「ではみんな、明日までに読んできてくれたまえ。ハハハ。まあ、今回のヒロインは決まっているけどね」

「誰ですか?」紗季が聞く。

「紗季。君だよ」

「えええ?」

「アミちゃんじゃなくて」竜也が言った。

「アミも考えたんだけどね。やっぱり、こういうのは素朴な印象のヒロインじゃないとダメなんだよ。アミちゃんみたいに、裸がへっちゃらそうな子よりもね、紗季のような、パジャマ姿見られるのも抵抗あるっていうシャイな子が、裸婦モデルに挑むから、その究極の緊張感が観客にも伝わるんですよ、旦那!」

「悪かったですね、へっちゃらで」

「悪かったですね、素朴で」

麻未と紗季がムッとして今泉を睨む。翠も睨みながら言った。

「Wセクハラ」

「今のはギリギリセーフでしょう」

「余裕でアウトです」

今泉は振り向き、未来の顔を見た。未来は。

「アウト!」

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