《MUMEI》
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本番の舞台も順調で、劇団『難破船』のSNSやブログも好調に人が集まってきた。麻未と紗季と未来と翠が、交互に記事を書き、多く寄せられるコメントにも、一人ひとり丁寧に返信する。これもマーケティングの一端だ。仕事だと思えば大変でもできる。

一度売れても消えるスターは、これをやらないのだ。ファンは自由だから、真新しいほうへ行く。だから売れている時に有頂天にならずに、自分なんかを応援してくれるありがたい一人ひとりと、深い絆を結べば、そう簡単には離れない。

ルックス抜群の四人が男性ファンを会場に運んでくる。女性ファンは魅力的な女性が好きだから、十代の女性ファンも呼び込む。

練習風景も売りになる。Tシャツにジーパンで汗まみれになり猛練習する紗季と麻未の姿は絵になる。伸びをしたらおへそが見えてしまうタンクトップにショートスカートに裸足で稽古する翠は、男のファンを魅了した。

「お色気で売ってるのは自分じゃねえか」今泉はパソコンを見ながら文句を言う。「まあ、いいんだけど」



紗季は、例の紳士、立石勝太郎の絵画教室を楽しみにしていた。今までのヌードデッサン会は3時間で12000円くらいだが、立石は1時間で10万円という。

今所属している事務所では、「プロの女優だから」なんてことは言ってくれない。今まで通りだ。世間的にはまだまだ無名の役者だということはわかっている。だからこそ、立石の扱いは嬉しかった。

もしも立石の絵画教室でコンスタントに働けたら、どうなるか。1回1時間で10万円だ。週に3回でもやったら、牛丼店でのアルバイトを辞めても生活できる。

時間があいた分、稽古にも集中できるし、芝居のために映画を見たり、読書をしたり、他の劇団の演劇を観に行ったりと、研究と努力に費やせる。衣装や小道具にもこだわりを持てる。

無名の劇団はどこも資金難だ。ほとんど赤字だ。もしも週4回モデルになれば、月40万円。そうなれば劇団に貢献できる。時間があるからスタッフとして尽力できる。まさに芸術のために体を張るのだ。

「牛丼店辞めちゃったら浅尾君は悲しむだろうけど。ふふふ」

紗季も多少、有頂天になっていた。悪魔は有頂天に住んでいることを、彼女は知らない。

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