《MUMEI》
6
いよいよヌードデッサン会の本番当日。近くの駅まで、立石勝太郎自ら、車で迎えに来た。凄い待遇だ。

「紗季さん。きょうはよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

高級車で会場へ。紗季は緊張していた。舞台の緊張感とは全く種類の違う緊張だ。麻未や安藤講師は慣れると言っていたが、紗季はまだ慣れなかった。

裸婦モデルは何回経験しても凄く恥ずかしい。見知らぬ大勢の男女の目の前で全裸になるだけでも、本来はあり得ないくらい恥ずかしいことだが、絵を描くということは、多くの目が自分の裸体の隅々まで見ているということだ。それを思うと、顔が真っ赤になってしまう。

バストトップが変化したら誤解を招くので、それは怖いが、幸いそういうことはなかった。

車を下りて、会場の中に入る。マンションの一室だったら逃げようと思ったが、いつもと同じような普通の会場だった。

しかし入口で、屈強な、柄の悪い巨漢が二人、紗季を出迎えた。

「ちーす」

「こんにちは」

(ちーす?)

「ボディーガードを用意しましたよ」立石が静かに笑う。「何しろ、プロの女優が裸になるんですから」

「いえいえ」

すぐに会場が見えた。スケッチブックを抱えた男たちが、10人くらい見えた。全員男だ。しかも若くてやはり柄が悪い。立石と一緒に入ってきた紗季を、好奇な目で見すえた。

彼女は余計に緊張した。よく見ると、今までの絵画教室の会場とは違い、真ん中に白いベッドが置いてあり、その周りを男たちがスケッチブックを抱えてスタンバイしている。

(嘘、あそこに裸で寝るの?)

それは恥ずかしい、というか、怖い。紗季は胸のドキドキがまるで警告のように激しく早くなる。

「控室はそこです。準備できたら出てきてください」

「はい」

紗季は控室に入った。彼女は服を脱ぎ、全裸になると、白いバスタオルを体に巻き、しっかり結ぶ。

「・・・・・・」

彼女はバッグからスマホを取り出し、握り締めた。



その頃、稽古場では、岡田高正と露畠竜也が稽古をしていた。竜也はスーツ姿で、警察手帳を胸ポケットから出す。

「露畠だ。違うな。警視庁の露畠です。警察だあ!」

「そんなセリフありましたっけ?」岡田が聞く。

「あの刑事、迫力あったな。北倉です」

岡田は心配になり、竜也が持っている警察手帳を見た。

「何、自分の写真貼ってるんですか」

「露畠です」

「外でやったら違法ですよ」

「露畠です」

何回も反復練習を繰り返す竜也に、岡田は呆れた顔で苦笑した。

「凝り性なんだから」

「露畠です」

その時、岡田のスマホにメールが届いた。紗季からだ。

「ん?」

文面を見て、岡田は顔面蒼白になった。

「何だこれ?」

「どうした?」

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