《MUMEI》
7
紗季が控室から出てきた。バスタオル一枚の彼女を見て、男たちは興奮の面持ちで凝視する。本当に絵をまじめに勉強している芸術家たちなのか。紗季は焦った。皆、淫らな目だ。思わず足がすくむ。

「では紗季さん」立石が言う。「ベッドに仰向けに寝てください」

「あ、寝転がるポーズもあるんですね」紗季は赤面しながら笑みを見せる。

「いろんなポーズがありますよ。立ったり、すわったりだけではなく、踊っているようなポーズとか、難易度の高いのもあります」

「そうなんですか。まだまだ未熟者ですから」

「でも、立ちっぱなしよりも、寝ているほうが楽でしょう」

「どうですかね?」

紗季はバスタオルを巻いたまま、ベッドに上がった。しかしすぐには寝ない。どうしても躊躇が先に立つ。ほかの会場のように、明るく声をかけてくれたり、「よろしくお願いします」と言ってくれたり、そういう雰囲気がない。

男たちは皆黙ってじっと紗季を見ている。喋っているのは立石だけだ。あまりにも不気味だが、1時間10万円は他と比べて破格なのだから、多少のことは仕方ないか。紗季はそうも考えた。

立石はグラスを持ってきた。

「汗かいてますね」

「緊張しちゃって」紗季は照れた顔で笑う。

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