《MUMEI》
8
「脱水症状から熱中症にでもかかったら困りますから、一杯飲んでください」

「はい、いただきます」

紗季はウーロン茶をグイグイと飲みほした。ちょうど喉が渇いていたから助かった・・・と思ったのも束の間、全身に力が入らない。

「え、何で・・・」

急激に眠気が襲ってきたと思った時は、もうバタンとベッドに横に倒れていた。立石は紗季の顔を覗き、肩の辺りを触る。

彼女はバスタオル一枚という危ない格好のまま、無防備にも仰向けになって眠ってしまった。

「よし、手足を縛りなさい」

「へい」

三人の男はスケッチブックを置くと、眠っている紗季を乱暴にうつ伏せにし、手ぬぐいで両手首を後ろ手にキッチリ縛り、両足首も縛ると、仰向けにひっくり返した。

バスタオル一枚の姿で両手両足を拘束されてしまった。

「悲鳴を上げないように猿轡を咬ましなさい」

「へい」

紗季の口は猿轡を咬まされてしまった。もはや普通のヌードデッサン会場でないことは明らかだ。芸術を踏み躙る蛮行だ。1時間10万円。「この世の中に、上手い話は一つも転がっていない」。どんなに時代が変わろうとも、この諺だけは、不滅の黄金律なのだ。

「んんん・・・」

「そろそろ起きるかな?」立石は危ない笑顔で紗季を見下ろす。

「んんん・・・ん?」

紗季は目を開けた。

「お目覚めかな、お姫様?」

「ん?」

声を出そうとしたが、猿轡を咬まされているので声が出せない。紗季は上体を起こそうとして気づいた。手足を縛られている。

「ん?」

まだ自分の身に何が起きたかわからない彼女は、助けを求めるような目で立石を見つめた。

「ごめんね紗季さん。実は、SMチックなポーズを取ってくれるモデルが、なかなかいなくてね」

「んんん!」

SMと聞いて、紗季は目を丸くすると、激しくもがいた。

「大丈夫、大丈夫、これも一つの芸術だから。世間的にはまだ偏見があるから、最初から中身を言ったら、君だって断るでしょう」

10万円とはそういうことだったのか。紗季は怒った顔になると、騙した立石を睨みつけた。

「あ、そういう目で私を見るか。じゃあ、しょうがない。始めよう」

「ん?」

「おい、バスタオルを取っていいよ」

「待ってましたあ」

男がバスタオルに手をかける。紗季はたちまち弱気丸出しの顔になり、立石に助けを求めた。

「んんん! んんん!」

両目を真っ赤に腫らし、首を左右に振り続けて哀願の意思表示をする紗季。しかし立石は冷たい。

「私を一度でも軽蔑の眼で見たら、容赦はしないよ」

「んんんんん!」

(違うの待って!)

「おい、タオルを取りなさい」

「んんん! んんん!」

(待って、やめて!)

男がバスタオルをつかむ。もはや万事休すか。アニメのヒロインでも、ここまでの絶体絶命シーンはめったいにない。紗季は初めて味わうレイプの恐怖に、全身が震えた。

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