《MUMEI》
15
「ある夜、突然襲われて、強引に花びらは乱れ散り、妃はやはり、本当の嫁にされてしまうのです、めでたし、めでたし」

「めでたくないじゃん」麻未がムッとする。「共感を得られないよ」

「あのね。意表を突くことが大事なんだよ。万人に受けようなんて思ったら焦点がぼやけるよ。焦点といっても座布団五枚の話じゃないよ」

「今のは座布団全部取られるな」

「うるさいよミク。今回のターゲットは全国1000万のヒロピンファンなんだ」

「ひろぴん?」紗季は首をかしげる。

「ヒロインのピンチシーンに萌えるファンだよ」

「何それ、変態じゃない」

「あ、あああ!」今泉は目を丸くして紗季に指を差す。「何たる偏見! とても芸術を志す人間とは思えない暴言だ」

「ちょっと待ってくださいよ」

「ヒロインがピンチになる時、やっぱりハラハラドキドキするんだよ。だから最初の磔シーンが重要なんだ。磔にロマンを感じる人は私一人ではあるまい、カンラカンラ」

「ダメだこりゃ」

「何がダメなんだ。R18じゃない普通のまじめな物語にもヒロインの磔シーンは出てくるよ。さては怪傑ライオン丸を見ていないな」

「知りません」

ミーティングが荒れてきた。

「知りませんって、じゃあ何か」今泉もエキサイトしてきた。「はい、悪玉が出ました。はい、善玉が出ました。善玉が悪玉を退治してめでたし、めでたし? そんな物語を誰が見に来るの」

「何その極端さ」

女性陣と岡田は呆れた顔になるが、今泉は熱く語りまくる。

「はい、イケメンが登場。美女が登場。二人が出会って恋に落ち、最後は結婚。めでたし、めでたし。そんなもん、誰が金払って見に来るの」

「そんな単純な劇聞いたことないけど」翠が呟く。

「みんな冒険心を忘れたら終わりだよ。ギリギリの線を走ろうよ」

「そうだよ」竜也が爽やかな笑顔。「きわどいシーンがあれば、また、北倉刑事が楽屋に来るかもしれないし」

「あの上から目線デカか」未来が臨戦態勢。

「来ないほうがいいでしょ」紗季が竜也を睨む。

収拾がつかない。三宅が言った。

「じゃあ、たまには居酒屋でこの話の続きをしましょうか」

「おおいいね、いいこと言うね」

「酒が入ればいいアイデアが浮かぶかもしれないし」

「ホントに行くんですか?」

紗季はあまり乗り気ではない。そこへ、突然今泉が叫んだ。

「よし、決まった!」

「何がですか?」麻未が聞く。

「最初の妃の磔シーンは、妃らしい高貴な衣装にしよう」

「賛成です」

「しかし、寝室ではスッポンポンにされてしまうのです、ナハハハ、ナハハハ・・・だあああああ!」

背後から麻未の延髄斬りが炸裂したことは言うまでもない。

「痛い! 何するんだよ?」

「レッドカード!」

「レッドカード!」

「レッドカード!」

本気で怒る麻未と翠と紗季。後頭部を押さえながら、今泉は未来の顔を見た。

「退場!」

「とうとうここの劇団は冗談も言えなくなったか」

「冗談とセクハラは違いますよ」岡田も女性陣と同意見だ。

「また岡田君? この裏切者。デビルマンと呼ぶよ」

「意味わかりません」

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