《MUMEI》
分裂。
「死を強いる指導者のどこに真実がある!?寝言を言うなぁー!!」
「それはただ言いたいだけだろっ!!」


バタン。
名台詞を延々と繰り返すスパロボオタク系新斗の部屋の扉を強引に閉めると、鬱陶しかった声は消え、ただ閉めただけなのに扉は開くことがなかった。
そういうルールなのだろうか。
「ちなみに今のが佐久間君ってことは?」
「ないよ!確かに多少ああいう系統にハマってはいるみたいだけど、あそこまでウザくない」
「ふーん」
埜嶋さんは顎に指を当て、考えていそうな仕草をとった。
「…………じゃあ次は私ね」
しばらくすると嫌そうな表情で隣の扉のドアノブを握り。扉を開けた。


「あぁらん♪雪美ちゃんじゃなぁい♪」


バタン。
「まだ佐久間君のことをはっきり思い出したわけではないけどこれだけは違うと断言できる!」
「う、うん。そだね………」
気色の悪いものを見た………。
「………やっぱり、そういうことね」
「ん?どうかした?」
「『ここにいる佐久間新斗は厳密には偽者ではない。すべて本物』。小鳥遊晶って人が言っていたけど、これがずっと気になってたの」
「でも、今のもさっきのも、僕が知ってる新斗じゃなかったよ」
「うん。本で読んだことがあるけど、これってパラレルワールドっていうのじゃない?」
……………………………。
「ぱられる?」
「…………簡単に言えば、《もしもの世界》よ。ていうかあなた体験してるじゃない」
「へ?」
首を傾げると、埜嶋さんはおもむろにため息を吐いた。
「神名君。あなたは半年前の誘拐事件で生き残ったのよね」
「おうともさ」
「じゃあ《もしもその誘拐事件であなたが死亡していたら》?」
「……………あっ」
「ようやく気付いた?恐らくここは《もしも誘拐事件で神名薫が死亡していたら》の世界ってことよ」
「それが………パラレルワールド」
よくよく考えてみるとそれ知ってるじゃん!
「つまりここにいる佐久間君は《もしも佐久間新斗がこんな人間だったら》が集まっているのかもしれない」
「……………なるほどね」
だからすべて本物ということか。
もしもの新斗。
新斗の、分裂。
円柱のように伸びた壁には、無数の扉。
これは…………
「骨が折れそうだ」
そっと呟いた。

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