《MUMEI》
自覚。
それから何時間も経った。
現実世界なら、もう朝方となってもおかしくはないと思う。
しかし、ここは精神世界であるために時間という概念がない。
…………………らしい。
「どこの扉もハズレハズレハズレ…………。本物の佐久間くんなんて本当にいるのかしら………」
パラレルワールド、平行世界の佐久間君のすべてを集めているのだとしたら、それは千や万は下らない。
「時間切れじゃなく、気持ちが負けたら…………か」
私は少し休憩するために、床に座り込んでいる。
何もないような気がするのに、お尻はどんどん圧力がかかって、痛くなる。
私はこれで三度目の休憩だけど、神名君が休憩をしているところを見ていない。
手当たり次第、扉を開けて入っては出てきて閉めて、の繰り返し。
気持ちが負けることは、ないようだ。
神名君には、覚悟がある。
大切な友達だから。
またみんなと笑い合える日常を取り戻す為に。
私の覚悟は、弱い。
比べることすら愚かしい。
佐久間新斗に対するこの感情とわずかな記憶。
その正体を知るために、ここまで来た。
しかし、こんなものただの好奇心の延長だ。
私には、佐久間君を見つけ出す資格がない。
「…………えっ!?」
足が、徐々に消えていく。
足だけではなく、左腕、右肩、お腹も。
「えっ、なんでっ、そんな………!」
これは私の覚悟が折れてしまったから起きた現象?
これが気持ちが負けた代償?
左半身は完全に消え、あとは半分以上消えかかっている頭と右手だけ。
私は、一体、なんのために、ここまで、来たのだろう。



「負けるな!ふんばれ!」



消えかかっている私の右手に温かいものが包んだ。
目を開けると、そこには神名君がいた。
「待てよ!消えるな!まだお前には居てもらわないとダメなんだ!」
「……………でも、私は……………そんな資格なんて…………」
「人探しすんのに資格なんているか!勝手に消えるなんて俺が許さねえ!」
「……………ごめんね」
「お前自身は新斗のことをどう思っている!?感情に聞いてるんじゃねえ!心に聞いてんだよ!!」
「佐久間くんの…………ことを…………?」
「そうだ!お前の心はまだ俺の知っている新斗を覚えているはずだ!その片鱗はあった!口に出して言ってみろよ!新斗のことをどう思っているんだ!!」
「私は…………」
右手が完全に消えた。
「私は…………」
私の右手を掴んでいた神名君は、代わりに私を鋭く見る。
「さあ!叫んでみろよっ!」
「私は…………!」



「新斗くんのことが、好き…………!」




その瞬間、消えていた私の体はみるみると元通りに再生していく。
しかし、私のこの心は、元通りにはならない。
感情の疼きと胸の高鳴りは、恋の印なんだ。
私の知っている佐久間新斗を取り戻したいと、強く誓った。

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