《MUMEI》
2
(惚れた・・・)

「いかんいかんいかん!」

耕史は首を左右に振り、欲望を打ち消した。

「何がいかんなの?」

「え?」

独白すべきセリフが口から出てしまっている。良くない展開だ。興奮し過ぎた。プロなら女の裸に翻弄などされてはいけない。ただ、昔と違い、レントゲン撮影で裸になることはない。Tシャツで十分なのだ。だから女性の裸を見る機会というのは皆無に近い。

「では、ここに乗って、手すりにつかまってください」

「はい」ふみは赤面している。「恥ずかしい!」

(かわいい!)

自分で素っ裸になっておいて、恥ずかしいもないものだが、耕史はこの幸運な時間を大事にしたかった。

彼は機械を動かす。音を立てながら、ゆっくり台が倒れる。一糸まとわぬ姿の彼女は、台の上に仰向けの状態になる。

「恥ずかしい・・・」

身じろぎするふみが魅惑的だ。このまま犯したい衝動を何とか押さえ、彼は仕事をする。

「じゃあ、また触って動かしていい?」

「どうぞ」

キュートなスマイルを向けられ、健全な人生設計が崩壊していく。結婚したい。こんな子と一緒に暮らせたら、どんなに楽しいか・・・。

(ダメだ、集中せねば)

耕史は、魅力的なふみの体を直接触る。肩や腰を両手で触りながら、位置を決めると、「じゃあ、そのまま動かないで」と、ポンとおなかを軽く叩いた。

「あっ」

「では行きます」

全身を撮影していく。ふみは生意気な笑顔を向ける。

「いま、どさくさに紛れてあたしのおなかを触ったね?」

「あ、ゴメン」

「それって必要?」

「ゴメンゴメン」耕史は慌てた。セクハラで訴えられたらレントゲン技師は終わりだ。「ホントにゴメン」

「ちゃんと謝ってくれたから、許します。でもあたし、そんな軽い女でも、淫らな女でもないよ」

「わかってるよそんなこと」

そんな挑発的な格好で台の上に寝てよく言うと思ったが、耕史はもめごとは避けたかった。まだ彼女の真意がわからない以上、勝手な勘違いは禁物だ。

(生意気な・・・暗がり連れ込んで孕ましたろか)

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