《MUMEI》 5ふみは、何を思ったか、全裸のままベッドにうつ伏せになる。 「え?」 「プロかどうか、ちょっと、腰を指圧してみて」 「こんなところでまずいよ」 「違いますよ、ここじゃなくて」 耕史は彼女の意図がつかめないまま、両手で軽く腰を指圧した。 「あ、やっぱりプロだ。触り方が全然違う」 これほど大胆な女子は見たことがない。耕史は完全に翻弄されていた。 「ねえ」 「何?」 「全身オイルマッサージとかできる?」 「できるよ」 ふみはニンマリすると、言った。 「お金は払いますから、あたしにオイルマッサージしてって言ったら怒ります?」 「怒らないよ」耕史は笑った。「それに、お金なんかいらないよ」 「マジ? あたしの裸が見れて全身マッサージできることが報酬になります?」 「なるなる」 「キャハハハ」ふみは嬉しそうに笑った。「冗談ですよ、そこまで自惚れてないですよ」 「でもどこでマッサージやるの?」 「ホテルかな」 「ホテル!」 「全裸で全身オイルマッサージです」ふみは笑った。「キャー、恥ずかしい!」 ホテルで二人きり。あり得ない。祖父から「この世に上手い話は一つも転がっていない」と聞かされた。その黄金律は今でも健在のはずだ。だから詐欺にも騙されないで、「人を見たら疑え」という祖母の教えも守り、今日まで無事に来たのだ。しかし今、小悪魔が・・・。 (いや、これは小悪魔ではなく正真正銘の悪魔かもしれない!) ふみは、返事のない耕史を睨むと、起き上がり、ベッドに腰掛けた。 「嫌なの?」 「あ・・・ホテル?」 「もちろんマッサージだけですよ」 「わかってるよ」 ふみは心配顔で言った。 「変なことしたらダメですよ。信用して二人きりでホテルに入るんだからね」 「もちろんわかってるよ」 「ホントかなあ。さっき、固まってたし、勘違いしたの? それともあたしを犯す妄想してたの?」 「まさかまさか」 目を丸くする耕史に、ふみは笑みを見せる。 「じゃあ、連絡しますから、連絡先を教えて」 二人は電話番号を交換した。ふみはワンピースを着て、スニーカーを履くと、満面笑顔で耕史の肩を触った。 「きょうは楽しかったです。じゃあ、連絡するからね」 「あ、ああ」 大変なことになった。耕史は戸惑った。これは新手の詐欺か。ホテルに入ってマッサージしている時に、巨漢が現れて、「俺の女に何してるんだ?」というパターンか。 しかし、本当に純粋にマッサージが目的だとしたら、ヘタに疑って断ってしまったら、こんなにもったいない話もない。 「そうだ、悪い子ではない。彼女を信じよう」 天真爛漫なだけだ。でも、成り行きでもっと危ない展開になることも十分にあり得る。嫌いな男に全裸は見せないだろう。ましてや全身オイルマッサージなど頼むわけがない。気に入ってくれたのだと素直に喜ぶべきか。それとも、草食系の安全パイだと舐められたか。 「いいぜ、いいぜ、舐めたお礼に全身舐めまわしてあげるから!」 「舐めまわす?」 「え?」 振り向くと、そこには女医が。 「わあああああ!」 「何叫んでるんですか?」疑いの目120パーセント。 「何でもありません」 前へ |次へ |
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