《MUMEI》 3ふみは仕事を終えて、自分のマンションに到着。黒い高級車が二台、マンションの前に停まっていた。ふみが車の前を通ると、ドアが開いた。 「え?」 二台の車からはスーツを着た柄の悪い男たちが五人も出てきた。ふみは足がすくんだ。まさか自分に用なのか。思いあたる節がない。 「二喜麻、ふみさんですね?」 「え?」 「ウチの坊ちゃんが会いたいと言っています。さあ、どうぞ」 車に乗れという仕草。ふみは硬直して動けない。ミニスカートが目立つ。男たちの危ない視線が、ふみの美脚に集まる。 「・・・坊ちゃん?」 「坊ちゃんをかわいがってくれたそうで。そのお礼がしたいそうです」 ドスの利いた声で迫られ、ふみは胸のドキドキが止まらない。周りを囲まれているから、走って逃げることもできない。大きい声を出したら、鳩尾が来るかもしれない。 「あの、酷いことはしませんよね?」 「坊ちゃんに聞いてください」 「ちゃんと謝りますから、乱暴なことだけは許してほしいんですけど」 「お・・・」サングラスの男が凄む。「自分のしたこと、自覚あるんだ?」 「あまりにもイケメンだったものですから、つい」 「つい?」 「いえ、言い訳はしません。土下座して謝りますから、乱暴なことだけは勘弁してくださいと、拓也さんに伝えてもらえませんか?」 「自分で言いな」 ふみは泣きたかったが、相手が本物のヤクザなら、泣いてもダメだ。怖い。怖過ぎる。 「手こずらすねお姉ちゃん。それとも、お寝んねして連れて行かれたいか?」 「わかりました、乗ります」 そう即答するしかなかった。女が気を失うのは危険過ぎる。目が覚めたら全裸にされているかもしれない。 ふみが車に乗ると、屈強な男二人に両側から挟まれた。生きた心地がしない。車が走り出す。 「怖い」 「自分で蒔いた種だろ」 ちょっとした悪戯のつもりが、とんでもないことに発展してしまった。反省しても遅い。ふみは後悔していた。調子に乗り過ぎた。とにかく穏便に済ませたい。ひたすら謝って許してもらうしかない。酷い目にだけは遭わされたくない。 前へ |次へ |
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