《MUMEI》
8
ふみが退院した翌日。電話がかかってきた。見ると、ガス会社からだ。

『お葉書ありがとうございます。確認させていただきます。今週の木曜日の午後ということで、大丈夫でしょうか?』

「はい、お願いします」

電話を切る。ガスの定期点検は住人が立ち会わなくていけない。そのため、都合の良い日を往復ハガキに記入して、送ったのだ。ふみはこのことをすっかり忘れていた。いろいろなことがあったのだから無理もない。

「木曜日かあ」

ふみは頭をよぎった。ピザ宅配は玄関先だけで、部屋の中には入らないが、ガスの点検は確か部屋の中に入る。その時に半裸で応対したらどうなるか。スリル満点だと思うが、失礼な気もする。

「バスタオル一枚・・・小さなタオルをただ片手で押さえるだけ・・・」

ふみは首を左右に振って妄想を打ち消した。

「いけないいけない。もう足を洗うんだ」

恋人ができたのだ。耕史はSだし、マッサージ師だけあって愛撫も上手。気持ちいい目にあわせてくれる。きっとスリリングなプレイもできるはずだ。

余計なことをして、また危ない目に遭ったら怖い。せっかく乙女の純情を死守してきたのだ。耕史に抱かれる前に、ほかの関係ない男にレイプされて全てを奪われたら、これ以上の悲劇はないではないか。

ふみは心に固く誓った。ガスの点検は私服で応対しようと。

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