《MUMEI》
15
悲鳴のような声に、耕史は血相を変えた。

「ふみ?」

「んんんんんんんんんん!」

耕史は靴を脱いで部屋に上がる。

「!」

ベッドの上にはあり得ない光景が。愛しのふみが、一糸まとわぬ姿で大の字に拘束されている。耕史は一瞬、何が何だかわからなかったが、とにかく手足をほどいた。

ふみは自由の身になると、自分で猿轡を外し、耕史に抱きついた。

「ふみ」

「・・・・・・」

「これはどういう?」

「何も聞かないで」

耕史は迷った。聞きたい。しかし、ふみの切羽詰ったような声に、何も聞けなかった。

「大丈夫・・・なのか?」

「あたしは大丈夫。でも・・・」

耕史は、ふみをやさしく抱き締めながら、囁いた。

「でも?」

「あたし、処女じゃないの」

嘘だったということか。それとも、まさか。

(レイプされた?)

自分で手足を縛るのは無理だ。ということは、誰かに縛られた。考えられるのは二つ。レイプか、もしくはSMプレイだ。

「ふみ」

「心配しないで。レイプじゃないから」

「・・・・・・」

耕史は胸騒ぎが止まらない。

「SMプレイだから。あたし、アブなの。軽蔑した?」

「まさか」

水着姿でドアを開け、水着姿で寝転がって男を挑発した。これで犯されても、レイプと言えるかどうか。法律に詳しいわけではないふみには、わからなかった。

レイプと知ったら、耕史が激怒して警察に訴えるに決まっている。それは困る。笑いながら女性のおなかをボカボカ本気で殴る男だ。変態だ。リョナマニアの危険性がある。そうなると逆恨みが怖い。

同意のもとにせず、約束を破ってレイプされたと訴えて、仮に有罪になっても、数年で出てこれる。裁判で水着姿で挑発したことが明るみに出て、執行猶予がついたら、復讐される。

今度またあの男に捕まったら。何かで眠らされて監禁されたら。全裸で手足を縛られてしまったら。間違いなくハードリョナで嬲り殺される気がした。死ぬまで腹パンチ連打される。考えただけで恐怖だ。

「耕史さん」

「何?」

「あたしは、あなたを裏切った」

「裏切った?」耕史はふみを抱きしめたまま顔をしかめる。

「ほかの男とSMプレイして。犯されて、初めてを奪われて・・・」

耕史は両目を閉じた。

「猿轡咬まされて、やめてって言えなかったの。言っても犯されたかもしれないけど」

おそらく今さっきの話なのだろう。耕史は黙っていた。全裸放置もSMプレイのうちなのだろうか。

「その男とは、まだ付き合ってるのか?」

「二度と会わない」

「本当に?」

「信じてください」

耕史はふみを強く抱き締めた。ふみが囁く。

「ごめんね。耕史さんには、きっともっと相応しい人が見つかるよ」

このセリフを聞いて、耕史はふみを放し、怖い顔で見た。

「どういう意味だ?」

「ほかの男に犯されたあたしに興味ないでしょう」

「本気で怒るぞ」

「え?」

「関係ない。ふみのことが好きなんだ。ふみ以外の女なんか考えられない」

ふみは目を見開くと、聞いた。

「だってあたし、もう処女じゃないんだよ」

「何か勘違いしてないか。ふみ」

耕史の真剣な眼差しに、ふみは自分の勘違いに気づいた。

(何だ、そんなことにこだわってなかったのか)

ふみは頭を耕史の胸に預けた。

「あたしはまだ、恋人?」

「まだって何だよ。永遠にふみしか愛する気はないよ」

救われた。奥さんがほかの男にレイプされて。「抵抗できなかったのかよ?」と怒って離婚した夫がいた。そういう残酷な話を聞き、若いふみは、男とはそういうものだと誤解していた。

レイプはレイプしたほうが100%、1000%悪いのだ。女のほうに落ち度があったという話はセカンドレイプで、被害者の女性を二重に苦しませる。

「耕史さん」

「ん?」

「抱いて」

改めて、今ふみが全裸だったことに気づく。耕史は、魅惑的なふみをベッドに押し倒した。



END

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