《MUMEI》
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切吹ゆりは官能小説家だ。ノートパソコンに向かい、キーボードを打つ手が止まらない。美しい人妻が、無念にも夫の敵にレイプされかけたシーンを一気に描いた。

最初は容赦なく犯されてしまうパターンを考えていたが、意表を突き、犯されるという最悪の事態だけは避けられた展開に変更した。

ゆりは独身の32歳だが、人妻の気持ちも想像できる年齢だ。ただ「イカされて悔しい」では弱い。官能小説はシチュエーションが命だ。素人の動画のように、再生したら、始めからピストン運動しているレイプシーンなど、愚の骨頂だ。

そうなるまでのプロセスが重要なのだ。しかも、いきなりレイプされて、抵抗もしないで、アンアン感じちゃうなんて、作り手の男はきっと女を知らないのだろうと、ゆりはムッとした。

彼女はリアリティーを重んじた。レイプは女にとっては殺されることと同等の出来事なのだ。だから必死に抵抗する。簡単にレイプされることはない。

そこでプロセスが重要になってくる。まずは、薬かスタンガンか鳩尾で気を失ってしまうパターン。意識がなければ、裸にもされてしまうし、眠っている間に手足を縛ることもできる。

無抵抗にされたら、レイプされてしまう危険性は一気に高まる。あとは、脅しだ。ナイフで脅され、男に死とレイプの二択を迫られ、仕方なく観念するパターンも、十分あり得る。

ほかにも全裸写真を撮られて、従わないとネットにバラまくと脅迫されたり、弱味を握られたり、何かよほどの理由がない限り、女は彼氏でも夫でもない男に体を許すことはない。

イカされるシチュエーションも創意工夫が必要だ。ゆりは、今回は、夫が大嫌いな男という設定を思いついたのだ。そんな男の愛撫で落とされてしまったら、夫に対してこれ以上の裏切り行為はない。

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