《MUMEI》
15
「ココ気持ちいいのか?」

「あああああ! いやあああああん! やめて、イッちゃう」

「いいよ、イッちゃいな」

「あああああ・・・」

ゆりは頭の中が真っ白になり、悩ましい顔で両目を閉じ、口を大きく開け、舌を出してしまった。愛液が飛び散る。

「やめて・・・やめて・・・」

「がっ!」

突然責めが止まった。ゆりは、川平がなぜ愛撫をやめたのかわからなかった。まさか「やめて」と言われて本当にやめるSはいないだろう。Mの「やめて」は「もっと」だ。

彼女は目を開ける。川平はうつ伏せになって倒れている。何が起きたか、半分放心状態だったゆりは、すぐには判断できなかった。しかし、見知らぬ男が二人、部屋の中にいることを知り、目が覚めた。

「き・・・」

「おっと、騒ぐなよ」

迷彩服を着た巨漢が、鋭いサバイバルナイフでゆりを脅す。彼女は夢の中から現実に引き戻され、慌ててうつ伏せになった。

(嘘でしょ、暴漢?)

ゆりは全裸だ。しかも両手首を拘束されて無抵抗の状態だ。死ぬほどの恐怖感に、今にも心臓が止まりそうなほどドキドキしていた。

(どうしよう、やられちゃう)

不安な顔色で男二人を見る。迷彩服の巨漢は、短い金髪で凶暴そうな風貌だが、もう一人の男は、スーツ姿で小柄な壮年だ。男は笑みを浮かべると、ゆりに穏やかな口調で聞いた。

「君は、お客さん?」

「・・・はい」

「ついてないね。客がゼロの時を狙ったのに、一人いたとはね」

「え?」

男は、ゆりの美しい裸体に見とれた。かわいいヒップだ。

「君の名前は? 名前だけでいい」

「ゆりです」

「ゆり。どんな字を書くの?」

「ひらがなで、ゆりです」

「そう。実はね。この旅館は、我々が占拠した」

「せんきょ?」

「バスジャックならず、旅館ジャックだよ」

「・・・・・・」ゆりは蒼白になった。

「悪いが、君も人質になってもらうよ」

絶望的な状況だ。ゆりは恐怖のあまり両目を真っ赤に腫らし、身じろぎした。レイプだけは絶対に許してもらうしかない。しかし全裸で両手首を縛られて無抵抗というのは、SMごっこをしていたとバレてしまう。あまりにも不利で、危険な状態だ。

「イヤ・・・」

男は、そんな彼女の気持ちを察したのか、ゆりの両手首を縛っている帯を解き、浴衣を広げると、彼女の背中に掛けた。

「え?」

「裸じゃ怖いだろ。いいよ、浴衣を着なさい」

「は、はい」ゆりは正座すると、素早く浴衣を羽織った。「あの、ありがとうございます」

「お礼はおかしいだろう」男は笑った。

「いえ」

彼女は立ち上がると、帯をしっかり締めた。

「さあ、君も来るんだ」

「・・・はい」

「おめえも来るんだよ」

「いっつ・・・」

迷彩服の男は、川平を無理やり立たせて、連行した。ゆりは、神妙な顔で壮年に付いていった。邪悪な犯人なら、全裸で両手首を縛られている女を見たら、レイプするか、少なくとも体を触りまくって意地悪するだろう。

あるいは、素っ裸のまま連行したかもしれない。しかし、この壮年は、すぐに戒めをほどいてくれて、意地悪することなく浴衣を着させてくれた。

人質に卑猥なことはしない紳士な犯人なのだろうか。ゆりは、希望的観測を抱いた。

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