《MUMEI》 16ゆりと川平は、大勢で宴会をする広い部屋に連れて行かれた。そこには女性従業員や男性スタッフらしき人たちが、暗い顔でうな垂れていた。皆正座させられている。 女性従業員は、ゆりの部屋に来た時は、ピンクの和服だったが、今は客が着る浴衣を着せられている。もしかしてゆりと同じように、浴衣の下は何も身につけていないのか。 男性は全部で五人。誰が犯人で誰が旅館の人間かはわからない。女性従業員は全部で五人。女将はいない。男性の支配人が仕切っている小さな旅館だ。 部屋の前にはホワイトボード。ホワイトボードの下にはダンボール箱。ビニールが見える。服でも入っているのか。そして、板の間には皆の携帯電話が並べられている。警察に通報させないためだろう。ゆりのスマホは部屋の中だから通報しようがない。 小柄な壮年がにこやかな顔で言った。 「これで全員揃ったかな。では、私から自己紹介しよう。私の名前は三井寺文世。残念ながらこの旅館は、我々が占拠した。もちろん動機はある。今は動機は教えられないが、ある実験をする。皆さんは私の実験に協力してもらいたい。今から私が法律だ。逆らう者は後悔するよ」 実験と聞いて、女性従業員は顔を紅潮させた。人体実験など、恐怖の連想をして震え上がる。それを見ていた三井寺は、笑顔で語りかけた。 「女の子たち。大丈夫だよ。いい子にしていれば酷いことはしない。でも逃げようとしたり、警察に通報しようとしたり、逆らったり、生意気な態度を取ったら最後、素っ裸にして拷問だよ」 ゆりも唇を強く結んだ。素っ裸にして拷問。この脅し文句は効いた。たいがいのバスジャックや銀行強盗は、人質に対して「殺すぞ」と脅す。凶器もナイフか銃だ。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |