《MUMEI》 2その時、厨房で料理をつくりながら、愛梨は小声で古関に言った。 「料理長。眠り薬を入れませんか?」 「眠り薬?」 「声が大きいですよ」愛梨は周囲を見回すと、囁くように言った。「このままでは、あたしたち全員レイプされてしまいます。あるいは、死ぬほど恥ずかしい目に遭わされます。そんなの絶対に嫌です。お願いです料理長。あたしたちを助けてください」 「しかし・・・」 「料理長」 古関は断った。 「やめたほうがいい。もしも先に誰かが毒見をさせられて、その人が眠ってしまったらおしまいだ」 それは確かに怖い。愛梨は意気消沈した。 「大丈夫。君のことは私が守るから。もしも変なことされそうになったら、体を張って助けるから」 「本当ですか?」 「最初は土下座する。それでもダメなら、包丁を持ってきて、自分の喉を刺す真似をするよ」 「料理長。本当に刺しちゃダメですよ」 「・・・わかった」 料理ができて、運ぶのは皆で手伝った。魚料理だ。三井寺も代野も、誰に毒見をさせることなく、先に口にした。 「これは美味い!」三井寺が言った。 「ありがとうございます」 日本酒やビールも出した。彼女たちは酒は飲まなかった。酔っ払うのは怖い。代野はビールをグイグイ飲みまくり、顔が赤くなる。この男が酔っ払うのは危険だ。 全員食事が済むと、三井寺が言った。 「ところで愛梨さん」 「はい」 「料理を手伝ってくれてありがとう」 「いえ」 三井寺は日本酒を飲みほすと、笑顔で愛梨を見る。 「で、古関料理長に、眠り薬を入れるように頼んだのは、どういう意味かな?」 「え?」愛梨は顔面蒼白になると、振り向いて古関を見た。古関は黙って俯いている。「何を言っているんですか。あたし、そんなこと言ってませんよ」 すると、三井寺が真顔で小型の機械を掲げた。 前へ |次へ |
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