《MUMEI》 17その頃、宴会の部屋では、すずが辺りを見回していた。三井寺は眠っている。代野はいない。すずは上体を起こした。男ものの白いワイシャツ姿のすずは、倉橋支配人と目が合った。古関料理長と川平も起きている。男性スタッフも眠れないのだろうと、純粋な彼女は思った。 三井寺のことを慎重に見ながら、すずは倉橋のところまで四つん這いで移動した。 「支配人」小声で話しかける。 「何だ?」 「今がチャンスです。代野がいません。あたし、スマホを取って警察に通報しますから、もしも三井寺が起きたら、三人がかりで組み伏してください」 「合気道の達人だったらどうする?」 すずは迷ったが、代野が戻ってきたら終わりだ。チャンスは今しかない。 「大丈夫ですよ、三人でかかれば」 「わかった」 すずは足音を立てないように、ゆっくり板の間へ向かって歩いた。板の間のすぐ近くには三井寺が寝ている。緊張の一瞬だ。ほかの女たちも皆起きていて、布団の中からすずを見守っている。 「よし」 すずは自分のスマホを手にする。三井寺が目を覚ました。 「あれ、何をしているのかな?」 「組み伏せて!」 「ラジャー」 川平の声とともに、三人がかりですずをうつ伏せにして押さえつけた。 「何やってるの!」 事態を飲み込めないすずに、笑顔で上体を起こした三井寺は、言った。 「こうなると、もうバラすしかないな」 「え?」 「すずさん。支配人も、料理長も、川平君も、みんな私とグルだよ」 「・・・嘘」 すずだけではなく、愛梨も、由恵も、綾香も、海苛も、茫然自失だ。 「そんな」 三井寺文世は、勝ち誇った笑みですずを見る。 「さあて、これは罰ゲームだな。代野にサイコロを振ってもらおう」 すずは観念したのか、哀願しない。しかし愛梨が言った。 「三井寺さん」 「何かな?」 「許してあげてください。お願いします」 「お願いします」ほかの女たちも皆頭を下げた。 三井寺は笑顔ですずに聞いた。 「すずさん。二度とこのようなことはしないと約束できるかな?」 「え?」すずは目を丸くすると、答えた。「二度としません」 「そう。じゃあ、いいよ。許してあげよう」 「え?」 すずは驚きの表情で三井寺を見つめた。男三人も驚いていた。川平は、すずの全裸が見れると思ったので残念がった。 三人が手を離すと、すずは改まって三井寺の前に正座した。 「あたしは、三井寺さんを誤解していたかもしれません」 「誤解?」 「もうダメかと思ったから」すずは両目を真っ赤に腫らす。「許してくださって、嬉しかった」 「いいよ、もう寝なさい」 「はい」 ほかの女たちも神妙な顔をしていた。19歳のすずが辱められるなら、体を張ってでも、身代わりになってでも、助けなくてはいけないと緊迫していたのだ。 許せないのは三人だ。裏切者だったとは、見抜けなかった。そういえば思い当たる節があり過ぎる。彼女たちは、犯人グループが一気に増えたことを知り、絶望感に襲われた。唯一の救いは、主犯の三井寺が鬼畜ではないのかもしれないという、希望的観測だけだ。 前へ |次へ |
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