《MUMEI》 2由恵は水着の上からエプロンをして、料理を手伝った。古関も犯人グループと知り、由恵は余計なことは一切話さなかった。かといってムッとした表情も禁物だ。古関が怒り、ないことないこと報告されても困る。だから由恵は、自分の身を守るために、古関にも普通に、今まで通りに接した。 昨日と同じように、お膳を出したり、料理を運んだりと、女性従業員とゆりはテキパキと動いた。 「焼魚と納豆か。朝食にぴったりだね」三井寺が古関に笑顔を向ける。 「ありがとうございます」 「それでは、いただきます」 「いただきます」 皆、黙々と食べる。代野は朝からビールをグイグイ飲んだ。 「うめえ」 浴衣のゆりと、パジャマの愛梨と、彼シャツのすずは、まだマシなほうだが、ほかの三人は落ち着かない。水着の由恵も、下着の綾香も、特にバスタオル一枚の海苛はいちばん不安だ。 皆が食べ終わり、お茶を飲んだり、酒やビールを飲んでいるところへ、いきなりチャイムが鳴った。 「ん?」 もう一度チャイム。そして、ノックをする音が聞こえた。 「支配人」三井寺が倉橋に言った。 「はい」 倉橋はゆっくり玄関に向かう。山々に囲まれた、別荘のような小さな旅館だ。近所には、ほとんど建物はないし、人や車の通りもない静かな場所だ。朝は霧が出ていて、視界も良くない。 旅館は三日間休みになっているから、こんな朝に、誰が尋ねて来たか、倉橋は少し不安だった。ドアを開ける前に聞く。 「はい」 「警察の者です」女の声。 「警察?」 「開けてください。すぐに開けないと突入します」 倉橋は蒼白になった。 ドアを開けると、スーツを着たポニーテールの美人刑事と、制服の警官が二人、外に立っていた。 「警察が何の用ですか?」 前へ |次へ |
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