《MUMEI》
3
「ちょっと、中を見せてください」女性刑事が警察手帳を見せる。

「お断りします」

「断る?」女刑事は真顔で聞いた。「それは、見られては困るものでもあるんですか?」

「何ですかその高圧的な態度は。だから警察は嫌いなんだ。協力する気はありません」

しかし刑事は怯まない。

「何度も女性の悲鳴が聞こえたという通報がありました。中を調べさせてください」

「だから断るって言ってるだろ。捜査令状はあるのか?」

「失礼します」

女性刑事が中に入ると同時に、二人の警官も入る。倉橋は遮ろうとしたが、屈強な警官だ。突破された。

(まずい!)

女たちの格好がまずい。浴衣はともかく、バスタオル一枚と下着は、説明のしようがない。そんな格好を従業員にさせるのはセクハラだ。

女性刑事と警官二人はズカズカと廊下を歩き、真っすぐに宴会の部屋へ向かう。人の気配がしたからだ。

「ちょっと待ってください」倉橋はふすまの前に立った。

「どきなさい」

「どきません」

「どきなさい」

「何で命令口調なの。おかしいでしょう」倉橋が怒る。

女性刑事は構わず倉橋をどかすと、ふすまを開けた。

「!」

倉橋は万事休すと思ったが、なぜか女性六人は、皆浴衣姿だった。

「どうしましたか?」三井寺が女性刑事に聞く。

「あなたは?」

「社長です」三井寺は素早く紹介した。「彼が支配人で、料理長、マッサージ師、あとは女性従業員です」

「今は、朝食の途中でしょうか?」

「ちょっと、お客様とトラブルを起こしましてね、三日前。それで三日間営業を中止して、こうして皆で反省と、今後の再発防止について話し合っているんです」

女性刑事は、迷彩服を着た代野を見た。

「この人は?」

「旅館の用心棒です」

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