《MUMEI》
5
小暮亜季、30歳。彼女は優秀な警察官だ。囮捜査を経験したこともあり、度胸満点だ。

車に乗り込むと、早速イヤホンを耳に当てる。旅館の中の話し声がハッキリと聞こえた。

「代野」

「はい」

「私は温泉に入ってくる」

「どうぞ、ごゆっくり」

盗聴器を仕掛けたことはバレていない。亜季はホッとした。

三井寺が部屋から出ていく。彼女たちは心配顔になった。やはり三井寺と彼女たちの間に、何かあったのではないか。ゆりは不思議に感じた。

「さあて」代野が立ち上がる。「あの女刑事はいきなり人質と言ったぞ。これは怪しいな」

ゆりも同じことを思っていたので、代野の言葉に緊張した。

「俺はきのうの夜いなかったから、誰かがどさくに紛れて警察に通報したな?」

皆かしこまった。

「誰だ。名乗りを挙げれば許すかもしれねえが、黙っていたら連帯責任で、全員スッポンポンだ、ガッハッハッハ!」

小暮亜季は、すぐに署に連絡した。

「小暮です。やはり女性たちが人質に取られています」

『何!』

「応援をよろしくお願いします」

『わかった』

亜季は、スッポンポンと聞いて胸がドキドキしていた。女性にとって男たちが見ている目の前で全裸にされることは、屈辱的であり、精神的にも危険だ。弱い女性なら立ち上がれない。一生消えない心の傷になることもある。

母親と一緒に女湯に入っていた若い娘が、覗き魔に裸を見られた。その一瞬で男性恐怖症になってしまった女性もいる。裸がへっちゃらな女から、パジャマ姿を見られることすら抵抗あるというシャイな子まで、千差万別なのだ。

女性は全部で六人。見た感じ、皆若かった。人質が裸にされることだけは絶対に避けたい。亜季は今か今かと応援を待った。

皆浴衣を着ていたが、すでに酷いことをされていないか。亜季は考えると、心が痛んだ。

「よし」代野は笑った。「誰も名乗りを挙げないので全員素っ裸になってもらう」

「待ってください」

「何だゆり?」

「本当にこの六人の誰かなんですか? 近所の人かもしれないでしょ」

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