《MUMEI》
26
ゆりは赤面しながら言った。

「ダメなんです。あたし、犯されているのに、その・・・3回も、イッてしまいました」

「え?」

「電マも入れると、4回もイカされてしまったんです。とてもレイプなんて言えません。もしもあれがレイプなら、あたしはレイプされているのに昇天してしまったことになります」

亜季は無言になってしまった。俯いていたゆりは、顔を上げて亜季の顔を直視した。

「もしも相手側が心ない弁護士なら、必ずそこを突いてきます。レイプされているのに、4回もイッた淫乱女」

「そんなことありません!」

「わかってます。女性ならわかります。しかし世間の男はどう思うでしょう。好奇心だけで、何を言うかわかりません。あたしは、ないことないこと書かれて、社会的に抹殺されてしまうかもしれません」

三井寺の警告が的中してしまった。亜季は顔を曇らせた。彼女たちに、法廷という公の場は、耐えられない。ゆりは、重ねて言った。

「あたしのレイプの問題だけではありません。人質が全員裸にされたと聞いた時、皆どう思うでしょうか。あたしは仕事柄、想像できてしまうんです。人質の女性を全裸にした卑怯な犯人に対して憤りを感じる人はごく僅かで、大半の人は、興味をそそられると思います。裸にされただけか。もっと卑猥なことされたんじゃないかと」

ゆりは真剣に語った。

「今はネットがあるから、週刊誌だけの問題では済みません。本当は全員レイプされたとか、妄想が飛び交い、ヘタしたら六人とも晒し者になります」

亜季は戦慄した。そんなこと絶対にあってはいけない。

「刑事さん。これがもし、都会のホテルの篭城事件なら、テレビ中継されたりして、隠しきれなかったでしょう。人質の女性が全員裸にされたことが、明るみに出ていました。しかし不幸中の幸いというべきか、野次馬やマスコミに気づかれる前に事件が解決しました。事件の詳細を知っているのは関係者だけです」

ゆりは、身を乗り出して言った。

「刑事さん。隠せないでしょうか?」

「え?」

「真実は、暴けばいいってもんじゃないと思うんです。つまり、人質は全員無事だった。トイレも食事も睡眠も全部OKで、紳士的に扱われて、卑猥なことは一切なかったと」

亜季は頭の中を急回転させた。

「でも、それでは、ヘタしたら執行猶予がついてしまいます。悪党にとって執行猶予は、無罪放免と同じです」

「でも、全部真実を暴いて、あの男たちを牢屋に追い込んだとしても、あたしたちが受けるセカンドレイプは、想像を絶します。裁判でどうしても詳細が語られる。好奇心だけで話題になり、個人情報が勝手に暴かれ、名前や顔写真まで公開されて・・・想像できてしまうんですよ。『これが裸にされた人質6人』なんて出ちゃったら、おしまいです」

「・・・上司に、相談します」

「あ、ほかの子たちの意見も聞いてください。覚悟を決めてる人もいるかもしれないし、ネットの怖さを知らない人もいるかもしれません。あたしは仕事柄、毎日ネットを見ます。だからわかるんです。裸にされただけじゃなく、コスプレなんか、ネタ探しの格好の材料になるし、ましてや全裸で手足を拘束されて性感マッサージですよ。被害者はMだったから喜んでいたとか、面白おかしく書かれたら、耐えられません」

大袈裟ではなく、自殺もあり得る。亜季は盲点を見抜けなかった。まさか代野と三井寺は、そこまで計算していたのか。だからあれほど落ち着いて、自分の悪事を語れたのか。

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