《MUMEI》
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性犯罪の被害者女性のセカンドレイプを防ぐ対策は、もちろん警察でも行われていたが、完璧な対策が取られているとは言えなかった。

小暮亜季は、人質全員と個別に面談したあと、皆と一緒に話し合った。とにかくセカンドレイプだけは絶対に防ぎたかった。過去にも、犯人に殺され、マスコミに殺され、二度殺された被害者女性が何人いたことか。そこに無頓着な警察官であっては絶対にいけない。

亜季は皆にゆりの意見を語った。すずが、最初に口を開いた。

「あたし、夜、三井寺さんが寝ている間に自分のスマホを取り返して、警察に通報しようとしたんです。そしたら、支配人たち三人に押さえ込まれて。まさかグルとは思わなかったから」

その時の光景を想像し、亜季は顔をしかめた。

「もう終わりだと思いました。裸にされて拷問されると観念したんですけど、あっさり許してくれたんです。凄く嬉しかった」

そこで嬉しがってはいけない。亜季は口を挟みそうになったが、黙って話を聞いた。

「三井寺さんは、そんな悪人には見えないんですよね」

「でも」海苛が怖い顔で言った。「川平だけは許せません。裏切者だし」

亜季は慎重に言葉を選んで話した。

「川平耕史だけの罪を挙げるわけにはいかないので、許せないとなると、やはり隠蔽はしない方向で?」

「いえ」海苛は真顔で語った。「セカンドレイプはやはり怖いです。あたしだけの問題じゃないし、これからのことを考えると。旅館はたぶん終わりでしょうから、就職しなきゃいけないし。ネットで晒し者にされたら、ちょっとね」

「困るのは」亜季が言う。「ヘタしたら罪が軽くなり、執行猶予がついてしまうこともあり得るということなんです」

あれほどの強制わいせつをして、執行猶予はあり得ない。しかし、全ての悪事を公の場で暴けば、自分たちが危ない。彼女たちは迷った。

強制わいせつが一切なかったということにしたら、どんな罪があるのか。監禁と脅迫のみ。もちろん監禁と脅迫は重罪だ。しかし、人質の女性に卑猥なことは全くせず、トイレには行かせたし、食事も睡眠もとらせた。裁判員が聞いたら、情状酌量の余地があると思ってしまうだろう。

綾香が口を開いた。

「三井寺さんと代野は、始めから犯行を考えていたから別として、川平だけは許せないですね」

「支配人と料理長は、そんな酷いことはしなかったけど、川平だけは積極的に犯行に加わっていたわけだし」

「代野も調子に乗り過ぎですよ。絶対に逆らえない立場だから言うこと聞くしかなかったのが凄く悔しい。三井寺さんがいなかったら、もっと酷いことされてたかも」

亜季は分析した。綾香も由恵も愛梨も、三井寺はさん付けで、代野と川平は呼び捨て。直接酷いことをした二人に怒りの矛先が向いている。本来は主犯の三井寺こそ憎むべき相手なのだが、代野も川平も三井寺の命令で動いていたわけではないように映ったか。

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