《MUMEI》
28
「刑事さん」海苛が怖い目で言った。「川平。土下座して謝ってくれませんかね」

「え?」

「そしたら、もちろん許さないけど、罪は告発しないと言えば、謝りますかね?」

「みんなは?」

亜季が一人ひとりに聞いたが、土下座させたいという意見は、海苛だけだった。

「上司に相談してみます」



しばらくすると、川平耕史が、警官に連れられて、皆がいる部屋に来た。男の刑事も一緒だ。海苛は殺意の目で立ち上がり、川平に向かって歩く。川平は、すぐに土下座した。

「海苛さん」

「気安く名前を呼ぶなバカ」

「あ、山根さん。どうも、すいませんでした」

土下座する川平を見下ろしていた海苛は、言った。

「立ちなさい」

「え?」川平はゆっくりと立った。

「一発殴らせて」

「それは・・・」

亜季が口を挟むと、川平は笑みを浮かべた。

「いいですよ、女性のビンタは暴力じゃありません」

川平は海苛を見つめた。海苛は怖い顔で睨む。

「がっ!」

まさかグーで来るとは思わなかった。

「痛い・・・」

強烈な右ストレートを顔面に食らい、川平は両手で顔を押さえて痛がった。

「あたしの心の痛みはこんなもんじゃないからね。この裏切者、卑怯者、意気地なし」

赤面して俯く川平に、海苛は追い討ちをかける。

「何、復讐を誓ってるの?」

「まさか、まさか、僕が100%悪いんだから」

「1000%でしょ。一生許すつもりはないけど、告発だけはしないから、ありがたく思いなさいよ」

「・・・はい」

あまり追い込んで、本当に復讐されたら困るので、ゆりが後ろから、海苛の肩を両手で触った。

「もうその辺で」

「ゆりさんはいいの?」

「な・・・いや、いいわ」

殴る価値もない、と言おうとしたが、やはり復讐は怖い。「窮鼠猫を噛む」で、あまり追い込み過ぎないほうがいい。強姦など取り返しのつかない凶悪犯罪を犯したわけではないのだ。

亜季は皆の意見をまとめて、上司に相談した。セカンドレイプを防ぐためとなると、男の刑事も腕組みしながら渋い顔をして考え込むが、反論できない。

「では、これで」

三井寺も、代野も、川平も、自分の罪が軽くなるのだから、反対はしないだろうと思った。

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