《MUMEI》
29
代野通も、川平耕史も、かなり長い懲役刑を覚悟していたから、思わず笑みがこぼれる。それを見ていた男の刑事が怒った。

「テメー。次はないからな。よく覚えておけ!」

「あーい」代野はあくびをした。

「何だこのヤロー」

「ダメです」亜季は、胸倉をつかもうとする刑事を腕で制した。

もしも、面白半分に「人質を裸にした」などと裁判で暴露されたら。それは怖い。慎重に話を進める必要があった。警察の不祥事を隠すための隠蔽工作ではなく、あくまでも被害者の尊厳を守るための隠蔽なのだ。だから犯人にも協力してもらわないと危ない。

代野と川平と違って、三井寺文世は、自分の罪が軽くなることではなく、別のことで喜んだ。

「そうですか。すずチャンがそんなことを?」

「三井寺さん」亜季が聞いた。「警察に通報しようとした彼女を、どうして許そうと思ったんですか?」

「裸にして拷問したほうが良かったですか?」

「そんなわけないでしょ」

三井寺はほくそ笑むと、答えた。

「ここで許したら、心を開いてくれるかなと。これはすずチャンだけではなく、ほかの女性たちも一緒です。すずをあっさり許した私を、尊敬の眼差しで見ていましたから。綾香チャンも、由恵、愛梨、海苛、みんなね。いい子たちだった」

亜季も三井寺を殴りたい衝動にかられたが、何とか耐えた。

「どうしても約束してくれないと困ることがあるのよ」

「何ですか?」

「二度と、こんな犯行はしないと誓って」

亜季が怖い顔で睨むと、三井寺は笑った。

「もうしません。実験は失敗しましたから」

(・・・成功したのよ)

亜季は、心の中で呟きながら、三井寺を睨んだ。

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