《MUMEI》
死神業



______冗談じゃない。
少女は真顔でそう思った。
「絶対嫌だ。他当たってよ」
腕を組みながら目の前の青年に言う。
だが引き下がらない。
「本当に困ってるから! おまえしか引き受けてくれる人間居ない」
「私引き受けるなんて一言も言ってない。そもそもあんた誰なの? 私おふざけに構ってる時間無いんだけど」
そう言うと、青年は溜息を吐いた。
「だぁから、さっき言っただろ? 俺は、一之瀬 響也。んで、死神」
当たり前だろ? とでも言うように少女、神崎 翁羽を見る。
「だから、そこからもう意味不明。もっとまともな嘘吐けない? 」
翁羽がそう言うと、響也は腰に刺してあった刀を見せた。
「コレとか」
「どうせ偽物でしょ」
「どうでしょうか」
挑発的な笑みを浮かべると、刀を引き抜いた。
鋭い刃が夕日を反射している。
どうやら本物のようだ。
「まだ疑うなら見せてやるよ。死神は人間の数倍動けるからな。こっちの方がわかりやすいぜ? 」
そう言うと、少し膝を曲げて上へ飛んだ。
翁羽は目を見開く。
スタッとジャングルジムの上に着地した響也は、両腕を開いた。
「ほらな? こんな事も出来るぞ」
響也はそのままさらに飛び上がり、空中で止まった。
まるで床でもあるかのように。
「信じてくれたか? 」
ここまで見せられては頷くしかない。
翁羽の反応を見ると、響也は満足そうに戻ってきた。
「じゃあ改めて言うわ。死神の仕事、手伝ってくれ」
「……」
翁羽は霊力というものを生まれつき持って居た。
もちろん霊を見ることなど、もはや日常茶飯事だ。
だがそんな翁羽でも、今まで死神には一度たりともあったことはない。
「今俺の他に二人来てるんだけどよ。手が回らないんだわ。マジで頼む」
手を合わせて頭を下げる響也。
翁羽はこいつが死神で良かったと思った。
こんな状況誰にも見られたくない。
「……わかったよ。やるよ。それでいいんでしょ」
若干投げやりだったが何を言っても彼は聞く耳を持たないだろう。
ならば断るだけ無駄だ。
「よっしゃ! じゃあ今から契約してもらうぜ」
契約という言葉を聞いて、現実味がないなと今更感じる翁羽であった。






「準備いいか? 動くなよ」
響也は翁羽に手の平を向けて目を瞑った。
「我は死神 姿を現せ そなたに眠る死の力」
響也がそう呟くと、足元から光が溢れてきた。
思わず目を閉じた。
しばらくして、体が軽くなった様な感覚になった。
薄っすらと目を開ける。
そこには横たわる自分の姿があった。
「え…? わた…し」
「それはおまえの身体だ。本体はこっち」
響也は翁羽を指す。
「つまり、魂と身体が分裂したって事だよ」
「なるほど。でもこの身体どうすればいいの」
翁羽は自分の身体から目を離して響也を見る。
「こいつを飲ませんだよ」
ニッと笑いながら出したのは小さい薬のような物だった。
響也は翁羽の身体に近づくと口に薬を入れた。
数秒後、目がゆっくりと開く。
「おっし。成功」
「砂付いたし…」
そう言って服についた砂を払う翁羽の身体。
「あ、翁羽さん。初めまして。私は0-X125です。よろしくお願いします」
「0-……それって製品番号? 」
そう聞くと、コクリと頷いた。
「ま、身体抜ける時はこの薬飲んでから身体出ろよ? そうすりゃ数秒後活動始めるから」
「ああ…うん。わかった」
自分の身体をまじまじと見る翁羽。
「じゃあ俺はもう行く。他のやつにも説明しないといけねぇし。……あ、その刀」
響也が指差す。
その視線を辿ると、自分の腰にある刀に行き着いた。
「それ俺と同じやつだな。ってことは、おまえ俺とパートナーだ。ハハハ。よろしくな」
それから響也は足早に去って行った。
「……」
「……戻りましょうか? 」
「……うん」



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