《MUMEI》

じっと桐生を見つめてると桐生が不意にこちらを向き、視線が絡み合う。だが互いに顔を逸らしたためそれは一瞬の出来事だった。


…………はぁ。私も大概素直じゃないな。


仲直りしたいとは思ってる。けど、どう切り出したら良いのかわからない。わからないから余計にムキになってこういう態度になってしまう。



「……はぁ」


思わず小さなため息を溢すと、才原がそれに気付いて顔を近付けてきた。


「どうしたの、橘?」


先程から私と桐生のやりとりをハラハラした様子で見守っていた才原。……まあ、こいつになら言おうかな。


「どうやって謝ればいいのかなって……」


ため息混じりに言ったらキョトンとした顔だった才原だが、何故かその顔がキラキラとした笑顔に変わっていった。


なんか、嫌な予感が……


「大丈夫!俺に任せて!」


普通なら頼もしい!と思うところだが何故だろうこいつに任せてはいけない気分になってくる。


「あの、才原?」


「あー!」


再び声をかけたら才原がいきなり叫んだ。それに反応して桐生もこちらを向く。


「なんだ?才原」


「ちょっと用事思い出した!あとは二人でよろしく!」


「「はあああ!?」」


何を言い出すんだこいつは。めっちゃ棒読みじゃん。明らか嘘じゃん。何考えてんだよ。つーか今このタイミングで二人きりにすんな馬鹿!


私の心の声なんて知るよしもない才原はとってもいい笑顔で教室を出ていった。


相談した私が馬鹿だった……


教室に残された私と桐生は互いに青ざめている。どうしろと言うんだ、才原クン。

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